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メンバーとの出会い✦side蓮✦2

「え、おい秋人。お前ふだん絶対回し飲みとかしないじゃん。どうした?」  リュウジさんが驚いたように声を上げて、京さんはあんぐりと口を開けていた。  リュウジさんの言葉に、どうしよう飲ませちゃった、と俺は再び固まった。 「ん、そうだっけ?」 「は? そうだろ」 「んー、そうかも。あれ、なんでだろ。少しも気になんなかった」 「マジかよ」  秋さんは優しいから、気使ってそう言ってくれたんじゃないかな……。そうだと思うと申し訳なくなる。  きっと情けない顔になっていたんだと思う。秋さんは俺を見て、またふはっと笑った。 「だから気になんなかったって、言ってんじゃん」  頭をワシャワシャと撫でられた。 「でも、ごめん。秋さん」 「ほら、リュウジが余計なこと言うから蓮が落ち込んじゃったじゃん」 「あー、そっか、すまん。驚きすぎてつい」 「いや、リュウジが言わなかったら俺が言ってた」 「そうやって追い打ちかけんなよー」  と呆れたような顔で二人に文句を言いながら、手の中にある缶コーヒーを全部飲み干した。    「だいだいさ」と空になった缶をテーブルにコンと音をたてて置いて、俺の肩にまた頭をのせた。   「こうやって毎日ひっついてるから、なんか色々麻痺しちゃうよな」 「……秋さん」 「それにさ」  と、俺の耳元に口を近づけて秋さんがささやく。 「俺たち明日、キス、するもんな」  言われた瞬間、ボッと顔が熱くなった。 「ああ、明日キスシーン撮るのか?」 「そう。な、蓮」 「蓮くん顔真っ赤じゃん。明日大丈夫なの?」 「それは回し飲みとか言ってる場合じゃないわな」 「ていうか、蓮くんが攻め役だったよね?」 「マジか、受けの方が合うんじゃないのか?」 「お、じゃあ俺からキス迫ろうかな?」 「いやそれ、ドラマの内容変わっちゃうから」 「ははっ」  三人でポンポンとキャッチボールのように会話が続いている。顔がほてったまま、流れる話を黙って聞いていた。  そしてなぜだか、秋さんのセリフだけをはっきり聞き取っている自分がいる。  俺からキス迫ろうかな? と言った秋さんの言葉に過剰に反応してしまう。  もう恥ずかしくていたたまれなくて、膝の上に上半身を倒して突っ伏した。 「あれ、蓮くんどした?」 「おーい、蓮、大丈夫か?」 「蓮くーん」 「からかいすぎたかな?」 「めっちゃ純情くんだねぇ。確かに可愛いわ」 「秋人が可愛い連呼するから、気になって見にきたんだけどさ。ドラマとギャップありすぎな」 「な、可愛いだろ? 俺の蓮」 「お前のなのかよ」 「そうだけど?」  楽しそうに続く会話。秋さんの言葉だけを鮮明に拾う俺。  俺の蓮、が頭の中で繰り返される。  どうしちゃったの、俺。おかしい。  俺の蓮、が死ぬほど嬉しいなんてどうかしてる。落ち着け。  本当にこんな調子で、明日を乗り切れるのか自信がない。  秋さん達に茶化されてつつかれていると、ADさんが一人、顔を出した。 「久遠さん、神宮寺さん。あの、次のシーンなんですが。トラブルで全員そろうまでしばらくかかるので、そのあと予定していたシーンを先撮りすることになりまして」 「あ、じゃあ戻るの俺だけですか? 蓮は空き時間?」 「はい。神宮寺さんはそのままで。久遠さんだけ戻ってください」 「わかりました。じゃあ蓮ゆっくり休んでろな。お前ら、もう帰れよ」  秋さんは立ち上がると、それぞれに声をかけて空き缶をゴミ箱に捨てた。  こちらに向かって手をふって、ADさんと一緒に慌ただしくこの場をあとにした。  

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