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この胸の高鳴りは……✦side蓮✦5

「俺、恋愛のからむ役って初めてだから、他と比べられなくて分かんないんです」  他に経験があったらもっと悩まずにすんだのに、と深いため息が出た。   「秋さんはすごい綺麗だし、雑誌撮影でもずっと距離感がおかしかったし。初めてのことばっかりで。そこにキスシーンだったから……だから役と現実が混乱してるのかなって……。もし他にも恋愛ドラマをやったら、同じことになるのかなって。自分が分からなくて……」 「ふむ。なるほど。ようは同じ環境になったら、秋人くんじゃなくても好きになるのかもって悩んでると」 「…………役と現実が混乱してるかも、ってくだりはスルーですか?」 「ほら。やっぱり好きなんだ」 「美月さん聞いてます?」 「はいはいはい。ごめんなさい」  両手を顔の高さまで上げてそう謝る美月さんの顔は、ぜんぜん反省してなさそうだ。  やっぱり話さなきゃ良かったな、と落胆した。 「ちょっと提案なんだけど」  ウキウキって言葉を顔全面に貼り付けて、美月さんは運転席から後部座席に移動してきた。 「なんですか?」 「ちょっと、検証してみない?」 「検証……?」 「同じ環境になったら、秋人くんじゃなくても好きになっちゃうのかどうかよ」 「……えっと……。誰と、どうやって?」 「私と。秋人くんと同じ距離感で」 「……え? ちょっと意味が分かりません……」  気持ちドア側に、お尻をずらして距離をとった。たいして変わらなかったが。 「もちろん、ドラマの撮影に見立てて、試してみるだけよ?」 「…………ええ……? 本気ですか……?」 「本気よっ。だって、秋人くんへの恋心にちゃんと気づいてもらわなきゃ困るっ!」 「……なんで美月さんが困るんですか……」  本当に美月さんは、いつも突拍子もないことを考える。 「試しに、ちょっと肩組んでみる?」 「…………え? 今? ここで?」 「ちょうどこのワンボックス、着替えられるようにカーテン付いてるしね」  そう言うと美月さんは、窓という窓にカーテンを引いて、運転席側との間に、仕切りも引いた。 「うん、完璧。どう?」 「……本当にやるんですか?」 「蓮くん、切羽詰まってるでしょう? 自分の気持ち、早くスッキリさせなきゃ。結構いい案だと思うんだけど」 「美月さんとは、すごくよく知ってる間柄だし、どうなんでしょう……」 「馬鹿ね。人間、体重ねたらほだされるってこともあんのよ」 「体かさね……って」  想像してしまって、ボッと顔が熱くなる。 「いや、いやいや、結構です! 無理です!」 「ただのたとえ話よ……。過剰に反応しないの」  美月さんがあきれ顔で俺を見る。 「……ですよね。すみません」  本気でホッとした。  

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