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この胸の高鳴りは……✦side蓮✦6

「とりあえずキスシーンの前でもすでにドキドキしてたでしょ? まず再現してみよう」  ほらと美月さんは俺に密着して座った。  肩を組めということか。  俺は深呼吸をすると、意を決意して挑んだ。  これは撮影、撮影だ。 「どう? なにか感じる?」 「…………若干、緊張します、ね」 「ドラマだと思って、感情込めてやってみて。あ、あと今から敬語禁止ね」 「え?」 「秋人くんと条件同じにしないと。距離感違うと検証できないでしょ」 「はぁ」 「そこは、うんとか、わかった、とかね」 「う、うん」  美月さんは、本当にちゃんと俺のことを思ってやってくれてるのかも、と感じてきた。  真剣にやろう。俺は、ドラマで美月さん演じる恋人と肩を組む、と役になりきってみた。  先程とは身の入り方が変わる。もっと愛おしそうに。美月さんの頭に頬をすり寄せてみた。   「………………」 「どう?」 「やっぱり……」 「やっぱり?」 「秋さんより、やりやすい」 「やりやすい?」 「うん。心が穏やかで」 「うん、若干、失礼だな」 「ごめんなさい」  体を離すと向き合って、お互いに苦笑いをした。 「しばらく距離感近づけて検証しようか。蓮くんの気持ちに答えが出るまで」 「……すみません。助かります」  助かるのかな、本当に。ちょっとだけ疑問だがやってみるしかない。 「敬語は禁止ね」 「はい、あ、うん」  ちょっと変なことになってしまったけど、自分の気持ちが分からないままは困る。  これで本当に分かればいいけど……。 「美月さんは、その、ドキドキしませんか? じゃなくて、ドキドキしない?」 「私? 私はね……」  顔を両手で隠して、うつむいてしまった。 「えっと、あの……そんな無理はしなくても……」  やっぱりやめましょうと言おうとした俺は、顔を上げた美月さんの顔を見て、取り越し苦労だったと肩を落とした。 「私はね。蓮くんと秋人くんの生BLへの期待が大きすぎて、ドキドキなんかしてる余裕がないの!」  目をキラキラさせてなんてことを言うんだと、心底呆れてしまった。 「あの、生BLって言うけど、俺だけ好きでも駄目なんじゃ……」 「この際、片思いでもアリ!」 「……そ、ですか」 「敬語禁止」 「…………」  やっぱり相談する相手を間違えたのかもしれないと、深くため息をついた。    

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