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スマイルゼロ円✦side蓮✦1
早めにスタジオ入りをして、バタバタと準備をしている一生懸命なスタッフさん達を見ているのが、すごく好きだ。
今から一緒にドラマを作る。演じる役者だけじゃなく、たくさんの人達が一つのドラマに関わっている。
「蓮くん、今日も見る?」
カメラマンの黒田さんが、いつものように声をかけてくれた。
「あ、はい! ありがとうございます!」
「うん。はい、どうぞ」
今日の撮影を、どの角度からどのくらいのズームで撮るのか、黒田さんの説明を聞きながら今日もレンズを覗く。
それほど演技の参考になるわけではない。半分は興味本位からの趣味なのに、黒田さんはいつもとても親切に教えてくれる。
「蓮くん、カメラ好きだよな。あ、カメラだけじゃないか。音声とか照明とか全般だったな」
「はい。ワンシーンにカメラ何台も使って、色んな角度から撮った映像を切り取ってつなぎ合わせて。やっと数分のシーンになるんですよね。音声も照明も編集も、たくさんの人達の力で。なんかすごく感動します」
「そう言ってもらえると、俺たちもすごい嬉しいよ。ありがとな」
「こちらこそ、素敵なドラマに仕上げてくださって、ありがとうございます」
黒田さんとそんなやり取りをしていると、秋さんがスタジオ入りをした。
みんなに挨拶をしながら真っすぐにこちらにやってくる。
「蓮、おはよ」
「おはよう、秋さん」
今日もまぶしい笑顔に胸が高鳴った。
「秋さん今日はずいぶん早いね?」
「お前いつも早いから、もういると思って。何? カメラ覗かせてもらってんの?」
「久遠くんも見てみる?」
「いいんですか? やった」
子供みたいに目をキラキラさせた秋さんが、黒田さんの説明を聞きながら楽しそうにレンズを覗く。
俺がよく覗かせてもらってると知ると、「俺も今度から早く来るっ」と嬉しそうに宣言をした。
でもマネージャーさんに「時間があれば、だな」と言われて、口をとがらせて拗ねている。
そんな秋さんを見て、やっぱり可愛い、と俺は脳内で叫んでいた。
本当にどうしたらいいのか分からないほど、秋さんが可愛くて目が離せない。
「だから! それは壊れてるって言っただろっ!」
そのとき奥の方から、何やら怒鳴り声が聞こえてきて、俺たちは何事かとそちらを見た。
「お前のせいで撮影時間押すとこだったじゃねーかっ!」
「す、すみません!」
音声担当の男性に怒鳴られて、女性が何度も頭を下げている。
「またか」
黒田さんがボヤいた。
秋さんが問いかけるように見つめると、黒田さんは「いつものことだ」と苦虫を潰したような顔をした。
「あいつの沸点ちょっとおかしいんだよ。特に下のもんには。壊れてるって分かってんなら、自分で除けとけばいいだろうが」
ため息を盛大につくと、あいつはまったく、と言い置いて、黒田さんは別のカメラの方へと行ってしまった。
女性はうつむいて目元をこすると、機材を抱えてスタジオの出口に向った。
「蓮、あの人の名前分かる?」
「え? あ、たしか野口さんだよ」
「ん。サンキュ」
秋さんは、言い終わる前にすでに足が動いていて、女性を追いかけて行く。
え、と驚いて、俺も慌てて秋さんを追いかけた。
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