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一緒に観る?✦side秋人✦3

 それから俺は、酒をあおるように飲んだ。  とても素面で観ていられるほど、心臓に毛は生えていない。  酒は飲んでもSNSの投稿は忘れず、二人で酔っ払った顔を何度かアップした。リアルタイムで一緒に観ようとSNSに上げた手前、投稿を止めるわけにもいかない。  でも、見終わったあとの顔はとてもさらけ出せない気がした。  俺は時系列を誤魔化せそうな写真も、念のため一緒に撮っておく。あとでこれをこっそり使っても、どうか許してほしい。 「蓮、そろそろビールやめたほうがいいんじゃねぇ?」 「……うん、そうだね。ドラマ、観れなくなっちゃうや」 「お前、明日記憶残ってる?」 「えー? まだそこまで酔ってないよ」 「ははっ。本当かよ?」  そんな会話をしていたら、ドラマは夕日が差し込む教室を映し出していた。  とうとうキスシーンが始まる。 「秋さん……」 「うん……」  自分の本気のキスを見せられるなんて。いったいなんの罰ゲームだろうか。    テレビの中の俺は、榊さんが言っていた通り蓮のことがたまらなく好きだと、瞳が雄弁に語っていた。  セリフにも感情がだだ漏れだ。声も想像以上に震えていた。  羞恥がこみ上げてきて、じわりと冷や汗がでた。  これを演技だと本当に思ってもらえるのか、心底不安だ。   「このときの秋さん、思い出すだけで俺……毎日ドキドキするんだよね……」 「えっ……」 「本当に、ずっと離したくなかったな……。幸せすぎた……。秋さんのラブシーンって、破壊力すごいね」  蓮は傍目にも分かるくらい相当酔っ払っていて、自分が今何を発言したのか分かってなさそうだ。  顔も耳も真っ赤にしてる今の蓮は、きっと心臓もすごいことになってるだろう。  でもそれは、ただ恥ずかしいという感情だけ。  俺みたいに、ふれたいとか抱きしめたいとかキスがしたいとか、思ってるわけじゃない。  分かってる。でもそんな顔を見せられたら、どうしても勘違いしたくなる。  これは演技じゃないんだと言ったら、蓮はどう思うだろう。  撮影中に幸せだと思ってくれたなら、今も同じ気持ちになってくれないだろうか。 「キスシーン観てたらさ……。感情が戻ってこねぇ……?」 「戻ってくるに決まってるよっ。……だから離れてって言ったんじゃん」 「…………っ」    じゃあもし離れなかったらどうなる?  画面には、俺が感情に流されてやったアドリブのキスが、グッとアップで映し出されている。蓮は直視できないとでもいうように、手で顔を覆った。 「あーやばい……。やばい。駄目だ俺、酔っ払ってて、今何言うか分かんない……」 「……何、言えよ、なんだよ」  覆ってる手を引き剥がして、蓮の顔をのぞき込んだ。 「は、離れて……ってば」 「やだ」 「本当に俺、今何するかわかんないって……」 「……何。……しろよ、なんでも」 「あーもうっ。近付かれたら抱きしめたくなっちゃうんだってばっ!」  蓮の叫びに、押し殺していた感情がぶわっとあふれ出てどうしても止められなくなった。  ただキスシーンを観て役の感情が戻ってきてるだけ。分かってる。そんなこと分かってる。   「…………じゃあ、抱きしめろよ」  聞こえるかどうか分からないくらいの小さなつぶやきをこぼして、蓮の胸に顔をうずめた。 「あ、秋さ……っ」  蓮の心臓の音がドッドッと耳に響く。 「秋さん……っ」  背中に蓮の腕がまわってきて、腕の中にぎゅっと閉じ込めるように力強く抱きしめられた。  

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