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一緒に観る?✦side秋人✦4

「……蓮…………」  好きだ。  好きだ蓮。    言えない言葉を心の中でくり返す。  蓮の背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめ返した。 「秋さん……っ」  耳元で、蓮が何度も俺の名を呼んだ。  体がゾクッと震えた。  初めて秋人として抱きしめられた。  撮影じゃなく現実で、初めて蓮の胸の鼓動を聞いた。  幸せすぎて死にそうだった。  嬉しくてにじんだ涙が、蓮の服に吸い込まれていった。  蓮の口から漏れ出た吐息が、俺の脳をグズグズに溶かす。  もう何も考えられなくなる。ずっとこうしていたい。このまま蓮に優しく包まれていたい。    現実に戻りたくない。  離れたくない。  蓮に抱きつく力をさらに強めた。 「蓮……」    言えない言葉の代わりに名前を漏らし、胸にそっと頬をすり寄せる。 「…………っ」  蓮のうめくような声が聞こえたと思ったとき、下腹部の違和感に気づいた。    何か硬いものがふれている。  確認するようにグッと体を押し付けると、蓮はさらにうめき声を上げた。 「蓮…………?」  そっと体を離しそこを見下ろそうとすると、手が伸びてきてサッと目元を覆われた。 「ご、ごめん。ごめんなさい。俺……本当にごめんなさい」  泣きそうな蓮の声。 「もしかして……勃ってる?」 「…………っ。ごめん……なさ……っ」  驚いて思わず体が固まった。  何もしていないのに。ただ抱きしめ合っていただけなのに。  ウブだとかそんな言葉もフッとよぎったが、こんなに簡単に勃つものなんだろうか。  役の感情に引っ張られすぎた? 「……本当にごめ……なさい。俺、ちょっと……」  目を塞いでいた手が離れていって、蓮は俺の体をそっと押すと立ち上がろうとした。  とっさにその腕を取る。蓮は大げさなくらい体を震わせた。    役の感情だろうとなんだろうと、蓮は今俺に欲情してくれている。  びっくりはしたけど嬉しくてたまらない。  俺は蓮のそういう対象になり得るのだと。 「蓮……。抜き合い、しよっか」   「…………ぬ、きあい?」    一度でいい。蓮にふれたい。  恋人の真似ごとでもいいから、蓮を感じたい。  こんなこときっともう無い。今を逃したら、二度とこんな機会はやってこない。だから。  酔ったふりでもなんでも、してみせる。   

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