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好きになってごめん✦side秋人✦

 眠れない。蓮が用意してくれた布団の上で寝返りをうちながら、もんもんとする。  となりのベッドには、こちらに背を向けて寝ている蓮がいる。    抜き合いのあと、蓮を先にシャワーに行かせた。上がった蓮に、歯ブラシや着替えを渡されて俺もシャワーに入った。入りながら上がったあとのことをあれこれ考えて悩んだが、杞憂に終った。    俺がシャワーから出たらすでに先に寝ていたのも、今背中を向けているのも、気まずかったから?    明日の朝が怖い。どんな顔で蓮と向き合えばいいのか分からない。  そんなのは覚悟の上だったはずなのに、ことが終わってしまうと、途端に臆病になる自分が情けない。    ふれ合ったらもっと蓮が欲しくなってしまった。  一度でいいと思ったはずなのに、今はもう友達としての距離がつらい。  キスのできない距離がつらい。    どうしてもキスがしたくて我慢ができずにしたキスは、心の距離が遠すぎて、ただただ悲しいだけだった……。  俺はもう、ふれるだけのキスなんかじゃ満たされない。    もし蓮が深いキスをしてきたら。  もし蓮が口を開いて舌で愛撫してきたら。  唇を合わせてる間ずっと期待でドキドキしてた。  でも最後まで蓮の口は固く閉じていて、期待しても無駄なのだと悟った。  胸がズキズキと痛かった。    蓮のことが、好きで好きでたまらない。  もし俺が好きだと伝えたら蓮はなんて言う?  もう伝えてしまいたい。  この苦しい思いを吐き出してしまいたい。  でも蓮を失うのは絶対にいやだ。  死んでもいやだ。  ずっとこのまま一緒にいるためには、この気持ちを封印するしかないんだと何度も自分に言い聞かせる。     こんなに誰かを好きになったことなんてない。  今までの恋愛が、どれだけ受け身だったのか思い知る。  好きだと言われて付き合って、合わなくて終わる。それくらいの軽い付き合いが、片手で足りるくらいしか経験がない。  きらわれるのが怖いとこんなに不安に思ったことも、眠れないと悩んだことも、今までの恋愛では経験がない。  今日のことを、蓮は本当はどう思っただろう。俺をきらいにはならないと言っていたけれど、本当に今まで通りでいられるだろうか。  怖い。死ぬほど怖い。朝が来ないでほしい。  あんなバカなことをしなければよかった。 「………………ぅっ……」  後悔が涙となってあふれて、いったんこぼれ始めると止まらなくなった。  声がもれないように、枕に顔を押し付けて泣いた。    ひとしきり泣いて枕を濡らして、少し落ち着きを取り戻す。  深呼吸で息を整えていると、ベッドのきしむ音がしてビクッと体が跳ねた。  視線を上げてベッドを見ると、蓮がこちらを向いてスースーと寝息をたてていた。寝返りをうっただけか、とホッと息をつく。  体を起こして、ひざ立ちのままそっと蓮に近寄った。  ベッドの端に頭をポスッと乗せて、蓮の顔を眺める。  すごく穏やかな顔で、寝息をたててよく寝ている。可愛い……蓮。  手を伸ばして頭を撫でる。こしょばしいのかモゾッと動いたが、またスースーと気持ち良さそうに寝息を上げる。 「秋さん……」  名前を呼ばれて驚いて手を引っ込めたが、蓮は相変わらず気持ちよさそうに眠っている。寝言か、と胸を撫で下ろした。  俺の名前なんて呼んで……一体どんな夢見てんだよ。ベッドに預けた頭を蓮にもう少し近づけた。  蓮は、優しい顔でふふっと笑っている。  俺の夢を見て笑ってくれるなんて……幸せすぎる。 「秋さん……かわい……」  思わずベッドから頭を起こす。ふふふと笑ってる蓮を見おろしてつぶやいた。 「可愛いのは、お前だろ……」  本当、どんな夢見てんの……。  俺の夢を見て優しく笑う蓮に、嬉しくて胸がドキドキした。 「ごめんな、蓮……」  好きになってごめん。  大好きすぎて本当にごめん。  蓮が欲しいなんて思ってごめん。  明日になったら、ちゃんと友達に戻るから。  だからごめん。本当に。 「蓮……大好きだよ……」    眠ってる蓮の顔に近づいてそっとキスをした。  これが最後だから。本当に最後にするから。  この気持ちは封印するから。  だから許して。蓮。  身勝手でごめんな……。  わざと音を立てて唇を離した。  さっきのキスではできなかったリップ音。好きの気持ちがこもってしまいそうだったから……。 「蓮…………」  大好きだよ。蓮。  夢は終わり。  明日からは、また友達として……。  

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