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幸せを守りたい✦side秋人✦2

「どうだった? 一緒に観れるって? ……秋人?」  目の前が暗くなって、体が床に沈んでいくような感覚がした。  息がうまくできない。苦しい。助けて。  榊さんに支えられてなんとかソファに腰を下ろす。  榊さんが、タオルを頭から被せてくれた。 「……す……みませ……」 「いいから」  タオルの上から頭をポンとされると、たちまち仮面が剥がれた。 「あと十分後には車に移動だ。できるか?」  声が出せない。うなずいて答えた。 「俺は必要か? それとも一人がいい?」 「…………っ」 「一人がよかったら一回うなずけ」  そう言われて一回だけうなずいた。   「分かった。離れてるから。俺の存在は忘れろ」  榊さんの気配が、足音が、離れていく。  視界がグラグラして、全身から血の気が引いていく感じがした。  さっき聞いた言葉のパーツが、うまくかみ合わないまま頭の中でくり返される。  マネージャーは好きって言葉をずっと待っていて、気持ちは言えないと言った蓮。  言えないということは、本当は言いたいけど言えないということだ。  蓮は……マネージャーのことが好きだったんだ……。  俺を好きになってくれるなんて、期待していたわけじゃない。男同士は無いだろって分かってた。  それなのに、蓮が自分以外の誰かに想いを寄せていると知って目の前が真っ暗になる。  深い絶望感に襲われて、身体が冷たくなっていくような気がした。    終わりにしたいということは、もう付き合っていたのだろうか。  あの台風の日に、マネージャーとの会話に違和感を覚えたことを思い出す。  だからあんなに親しげに話すようになっていたんだと、はっと気づく。    俺とのことを疑われて責められていた。  俺とあんなことをしてしまったから、罪悪感で終わりにしたいと言ったのだろうか。  罪悪感のせいで、気持ちは言えないと言ったのだろうか。  でももうすでに付き合ってるのに、気持ちは言えないってどこかおかしい。  分からない。分からないけど、蓮がマネージャーを好きなことは変わらない。  蓮がつらい思いをしていることは変わらない。    俺が、二人の仲を壊してしまったのかもしれない。    一度でいいからなんて、自分勝手な気持ちであんなことをした俺のせいだ。  あの蓮が、俺とのことを好きな人に黙ったまま付き合い続けるなんて、きっとできるわけがない。  でも正直に話すこともできなくて別れようとしてた、きっとそういうことだ。    震えの止まらない手で、顔を覆った。  ごめん、蓮。俺のせいで。俺が馬鹿なことをしたから……。  俺はどうしたらいいんだろう。どうすれば間違いを正せるだろうか。 「秋人。動けるか?」  時間になると榊さんが側に戻ってきて、心配そうな声色で頭に手をそっと乗せてきた。 「……大丈夫です。行けます」  声が少し震えた。  でも俺が平気そうなふりをすると、榊さんは何も聞かずに黙っていてくれた。ありがたかった。  

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