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恋人の距離✦side秋人✦1

 朝だと分かって目覚めるよりも先に、大好きな蓮の匂いに気づいて、ハッとして目を覚ました。  蓮の腕の中に、すっぽりと包まれている。  蓮のぬくもりを感じて、昨日のことは本当に夢じゃないんだ……と胸が熱くなる。じわっと涙がにじんだ。  そっと蓮の顔を見上げると、気持ちよさそうに眠っている。  なんだかまだ信じられない。  昨日この家にくるまでの絶望感を思い出して、身震いがした。  本当に俺たちもう恋人……なんだよな。  本当に夢じゃないんだよな……。  蓮の胸に頬をすり寄せると、トクトクと優しい鼓動が耳に響く。  いつもの早鐘のような鼓動も好きだけど、この優しい音も好きだ。  ぎゅうっと俺が抱きつくと、さらに抱き寄せるように蓮の腕が動く。起きた? そう思ったが、穏やかな寝息が続いていた。  腕枕で抱きしめられたまま朝を迎える日が来るなんて、想像もしていなかった。  どうしよう本当に。幸せすぎて死んじゃいそうだ……。    幸せをかみしめていたら、けたたましい蓮の目覚ましの音がスマホから響いた。  台風の翌日にも聞いた音。それでもなかなか目覚めない蓮。あの日と同じ。  あの時は、蓮が起きたらどう反応するのか不安で苦しかった。  想像以上のテンパリ具合で、敬語も出てるしシャワーに逃げ込むしで、これはやばいと思って土下座をした。  今日はどうなるんだろう。  少し楽しみで、少し不安。きっと大丈夫だと思ってはいるが、ちゃんと確認するまでまだ夢のような気がして不安。  俺を包んでくれていた腕が離れていって、蓮は枕もとのスマホに手を伸ばした。  半分も開いていない目で画面を見ながら、目覚ましを止める。枕もとに戻そうとして、またスマホを二度見した。  何をそんなに驚いた顔で見ているのかと気になって、身体を起こして画面をのぞくと、『秋さんと恋人! 現実!』の文字が目に飛び込んできた。 「ははっ」    可愛いのと安心したのとで、思わず笑ってしまった。  蓮は壊れたロボットみたいに、カクカクしながら俺に顔を向けた。 「おはよ、蓮」  笑いながら挨拶をすると目をパチパチさせて、またスマホを見てから俺を見た。  蓮の空いてる方の手を、ぎゅっと握って俺は言った。 「好きだよ、蓮。大好き。…………蓮は?」  そう聞くと、蓮の瞳いっぱいに、みるみる涙がたまってこぼれそうになった。 「…………好き……秋さん……」 「俺も……大好き」 「……夢……じゃない?」    繋いでる手に力が入って、ぎゅっと痛いくらいに握られた。 「……もう、さわってもいいんだ……」  ふれることもできなかったこの数日間、蓮も俺と同じ気持ちだったんだ、とその言葉を聞いて嬉しくなった。 「蓮。昨日俺たち、何したっけ?」 「……え?」 「さわるどころじゃ、ないことしたよな?」  蓮はゆっくりと目を見開いて、顔を真っ赤に染め上げた。  昨日はあんなに男らしくてカッコ良かったのに、今日はいつものワンコの蓮で、可愛くて本当にどうしよう。 「昨日俺たち、セッ――」  スマホを枕もとに放り投げた蓮の手に、口をふさがれて最後まで言えなかった。  身体を起こしていた俺を、蓮は組み敷くようにベッドに倒して覆いかぶさる。 「な……んで秋さんは、いつもそう露骨なの……っ」  真っ赤な顔で照れてる蓮が、死ぬほど可愛くてたまらない。もっと構いたくなる。  ふさがれた手のひらを舌で舐めると、びっくりした顔でビクッと肩を震わせて、口から手を離した。  この程度で驚く蓮に、可愛さがあふれて笑ってしまう。 「……っ、秋さん、も……朝からやめて……っ」 「どうせふさぐなら……手じゃないのが、いいな」 「…………っ」 「なぁ……。キスして? もう本当に、俺の蓮だって思えるまで……」  蓮の頬に手をふれると、その手に蓮の手が重なる。 「……もう、俺……朝から心臓壊れそう……」  蓮は重ねた俺の手を取って、チュッと手のひらにキスをした。  胸にあったかくてくすぐったいものがふわっと広がって、心臓がきゅっとなった。    「秋さん……好き。大好き」  蓮の顔が近づいてきて、唇がそっとふれる。  ゆっくりとついばむようなキス。優しい優しいキス。 「……ん…………」  蓮の優しいキスが本当に気持ちいい……。もう、ずっとこうしていたい。  見つめ合って何度も唇を合わせて、だんだんと深くなる。 「……んっ、…………れん……すき……」 「あき……さん……っ」  優しく舌を絡めてゆっくり舌を吸われる。上あごを舐められてビクビクと感じた。  これ以上続けたらその先も欲しくなる……。  でもやめたくない……。  身体中がとろけるような幸福感に包まれて、もうめまいがしそうだった。    

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