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恋人の距離✦side秋人✦4
迎えの時間になって、俺たちはエレベーターで駐車場に向かった。
「そういえば……俺たち、距離感どう取ればいいんだろ……」
「あ……そうだよね、何も決めてなかった。どうしよう?」
もう最初から、クランクインからずっと距離感がおかしかったから、こうなったあとで人前での正しい距離がどうにも分からない。
駐車場の来客用スペースに、マネージャー二人が車を並べて停めていた。
俺たちが近づくと榊さんが車から降りてくる。
蓮にあいさつをしたあと、話がありますと言って、蓮のマネージャーの車に三人で乗り込むことになった。後部座席に俺と蓮。助手席に榊さん。運転席に蓮のマネージャー。
「えっと……あの、榊さん……その、俺たち……」
「秋人。分かってる。良かったな」
目を細めて優しい目で笑いかけてくれる榊さんに、思わず目頭が熱くなった。
「それで、今後なんですが。全力で隠す方針でいいですか? 事務所等にも」
「もちろんですっ! 事務所に報告なんてしたら引き離されますっ!」
蓮のマネージャーが力強く声を上げた。
「では、要は男女の恋愛と同じですから。そういう対応でやっていきます」
「榊さん、言うことが素敵!」
蓮のマネージャーのテンションが、妙に高すぎる。
あれ、こんな感じの人だったっけ?
「それから、今後の二人ですが」
「……はい」
「こじれる前の、ベッタリの距離感でやってください。バレないために」
「…………へ?」
「…………え?」
「えっ!!」
バレないためにベッタリ?
意味が分からなくて二人で困惑した。
「変に隠そうとすると余計にバレます。元々距離感がおかしかったのだし、そのままが一番安全だと考えましたがどうでしょうか」
「あ、確かにそうよねっ。そのほうが自然に振る舞えるし、今まで通りなんだからバレようがないものっ!」
榊さんはすごいことを思いつくな、と心底驚いた。
まるで隠さなくていいと言われたようなものだ。何も困ることはない。
俺たちは顔を見合わせた。お互いにゆるんだ顔を隠しきれない。
蓮が榊さんを真っすぐに見て口を開いた。
「分かりました。……あの、色々とご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」
「こちらこそ、秋人をよろしくお願いします」
反対されるどころか、榊さんも蓮のマネージャーも俺たちのために動いて協力してくれる。なんて幸せなんだろう。
これ以上困らせたくはないけれど、でもどうしても今聞いておきたいことがある。
「あの……榊さん。俺…………」
「なんだ?」
「俺……蓮の家に出入りし過ぎたら……やっぱ駄目ですか……?」
どこでリークされるか分からない。出入りし過ぎれば相当なリスクだ。分かっているけど……。
「本当は……毎日来たくて……。できるなら一緒に住みたくて……。できないって分かってるけど……」
「秋さん……」
「秋人くん……っ!」
やだ、もう、素敵、と運転席からつぶやきが聞こえて来た。
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