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恋人の距離✦side秋人✦3

 先に食べ終わった蓮がじっと俺を見つめていて、食べづらくて仕方ない。 「ちょい……もうちょっとだから、そっち向いてろよ」 「え。どうして? 見てたら駄目?」 「た……食べづらいだろっ」  蓮の可愛さが今までの十割増しくらいになっていて、本当に戸惑う。  今までは俺がちょっかいを出して蓮が照れる側だったのに、まるで逆になってしまった。  最後はかきこむように食べ終わると、待ちきれないというようにまたキスをしてくる。 「……ん……ちょ、待てって」  蓮の胸をトンと軽く叩いて、キスをとめた。   「ちょっ……と、やりすぎじゃねぇ……?」  さすがに恥ずかしくなって蓮に問うと、またきょとんとされた。 「もうずっとキスしてたい。秋さん可愛い」  ふわっと笑ってうなじを撫でられ、深く唇をふさがれた。 「んぅっ、……ぁ……」    朝からキスのしすぎで、幸せすぎて頭がぼうっとする。気持ち良すぎてどうにかなりそう。  この距離でいられるのは、この中でだけ。  こんなことをずっとしていたら、外に出たときちょっと離れただけでもつらくなりそうだ。  唇が離れると、俺は蓮の肩に顔をうずめた。 「……離れられなくなるだろ。……バカ」    もう朝からずっと胸がドキドキしてぎゅうっと苦しくて、こんな気持ちは初めてで、本当にどうしたらいいのか分からない。  蓮が側にいるとなぜか甘えたくなる自分がいて、どう考えても今までの俺とかけ離れている。  甘えたいって……なんだそれ。  大人になってから誰かに甘えるなんて今まで経験もないし、思ったこともなかったのに。 「秋さん……」 「……ん?」 「もうすぐ、撮影終わっちゃうね……」 「…………うん」 「簡単に、会えなくなっちゃう……」  蓮は俺の手を握ると、寂しそうな声色で言った。 「一緒に住みたいな…………」 「……えっ?」  蓮の言葉に驚いて顔を上げた。 「……今なんて言った……?」 「秋さんと、一緒に住みたいな……って」 「…………は……早いだろ……?」  すごく嬉しくて心臓が跳ねたのに、俺はそんなことを口走っていた。  昨日の今日で、まさか一緒に住みたいと思ってくれるなんて、嘘みたいで驚いた。   「……そっか。うん、そうだよね。まだ早いよね……。何言ってるんだろ、俺」  苦笑いを浮かべて残念そうにする蓮に、俺は首をふりながら慌てて言った。 「あーいや違うっ。ちょっとびっくりしただけだからな? ……俺も……一緒に住みてぇよ……」  蓮の手をぎゅっと握り返す。   「一緒に住めば毎日会えるし、もうずっと離れたくねぇし……」 「うん。もう離れたくないね……」 「でも、無理だよな……」 「そう……だよね……」    一緒に住むって簡単じゃない。  この仕事を続ける限り、どう考えても無理な気がする。  もし俺がグループじゃなくソロ活動だったら、もうちょっと自由だったかもしれないが……。    食器を片付け終わったタイミングで、榊さんからスマホにメッセージが入った。 「あ、やべ。迎えの場所変えてもらう連絡、忘れてた……」  「あ……たぶん大丈夫だと思うけど……」 「え?」  蓮の言葉に不思議に思いながらもメッセージを確認し、首をかしげる。 「ん? 榊さんここに迎えに来るって……なんでここにいるって知ってんだ?」 「俺が昨日ここに連れ帰ること、榊さん知ってたから。どうしてそうなったかも、知ってるし……」 「んん? え、知ってんの?」  そういえば、どうして打ち合わせを延期させたのか、突然帰っていいと言ったのか、色々と腑に落ちないままだったことを今さら思い出した。 「秋さんの様子がおかしいって気づいてから、何度も榊さんと話してたんだ。美月さんも一緒に」 「え、マジで……?」  蓮の話によると、榊さんも理由がわからず蓮に探りを入れて、お互いに探り合いをしていたらしい。 「それで昨日美月さんが、理由が分かったからこのまま拉致してもいいか聞いてくるって。榊さんはきっと、秋さんの気持ちを知ってるはずだからって……。美月さんのカン、当たってた?」  そんな裏のやり取りがあったなんて、驚きすぎて一瞬言葉を失った。 「お前のマネージャー……怖ぇな……」  榊さんが俺の気持ちを知ってるはずって、なんで分かったんだろう。  色々と思い返せば、最初から俺の気持ちを分かってて引き出そうとしていた気さえする。  榊さんも、全部分かってて協力してくれたんだ……。  

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