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番外編 美月さんはお見通し✦side秋人✦1

「秋さん。SNSが……」 「ん、どした……? なんかあった?」  ライブから一週間。俺たちの人前式への反応をちょっと心配していたが、SNSでもネットニュースでもファンサービスだと取ってくれていて安心していたところだった。 「今美月さんから、SNSで『あきれん、ライブ、キス』で検索かけてみてってメッセージが……」 「え……マジか。なんかヤバいのかな……」  ピリッと緊張感が走る。  蓮の膝の間に座って、ふわっと抱きしめられる格好でテレビを見ていた。  頬を胸に擦り寄せるように横を向いて、蓮と一緒に検索をかけたスマホをのぞき込む。 「……えっ、すごっ! 何これ、ちょっと保存してぇんだけどっ」 「えっ、これ本当にすごい……」  俺たちのあの人前式が、イラストや漫画になっていた。  手を繋いでほっぺにチューをしてるイラストたち。  実際にライブで見た人、ネットニュースに上がったニコイチ宣言の情報だけで描いてる人、様々だけどみんな上手い。 「えっ、口にチューしてんのもあるぜっ」 「秋さん、すごい楽しそう」  クスクス笑う蓮を振り返って、唇にチュッとキスをした。だって、すごい嬉しくてキスしたくなった。  蓮は頬をピンクに染めて、はにかむように笑った。   「だってすげぇじゃんっ。何これ、みんな絵うますぎなっ! えーすげぇっ。これ全部見たいっ」  俺の中ではもう本物の人前式のつもりだったが、残念ながら写真は無い。DVD用の撮影日でも無かったから何も残っていない。それだけが残念だった。  だからまさか、こんな風に絵になって残るなんて想像もしていなかった。 「蓮、俺この口にチューしてるやつめっちゃほしい。こっち送ってくれよ」  本当は口にしたかった誓のキス。  こんな風に実現できるなんて夢みたいだ。 「うん、待ってね……。あれ、どうやるんだっけ……?」  相変わらずスマホの操作が苦手な蓮に共有のやり方を教えて、無事にイラストを入手した。 「どこにも出さなきゃ……いいよな?」 「個人で楽しむだけなら、いいんじゃなかったかな?」 「そうだよな。良かった」  イラストを見て顔がゆるむ。  絵がうますぎてビックリだ。蓮がめっちゃ格好良い。ペンライトの青い光の粒の中で、俺たちが手を繋いでキスをしている。  再現度が半端ない上に、口にキスをしてる絵を描いてくれたことに感動する。   「描いてくれたみんなに、いいね百個くらい押したい」 「え、いいねってそんなに押せるの?」  素で驚く蓮に苦笑する。 「押せねぇよ。いいね、は一個だけな」 「なんだ、そっか。ビックリした」 「俺たちは、一個でさえ押せねぇけどな……」 「……そ……っか。残念……」  一人に押すと不公平になる。全員には押せないし、だからファンの子には『いいね』は押せない。 「またなんか言われるかもしれねぇし、平静でいられるように訓練しなきゃな……」 「……そうだね」    リュウジと京にバレたのをきっかけに、不意に確信をつくような何かを言われたときにボロが出ないよう、必死で二人で訓練を重ねた。   蓮は、言われた瞬間に『役』に入り込めるように。  俺はひたすらボロが出ないように、言われそうな言葉に耐性をつけた。  ライブの直後、ニコイチ宣言がネットニュースに上がって、気を緩めていたらギクッとなっただろうことを何度か言われた。もしかしてそっち? とからかわれた時は、訓練してなかったらマジでヤバかったと思う。  今はまだ本気で言ってくる人はいないが、気をつけないと本当にいつかバレる……。    絶対に蓮との時間を奪われたくない。  もし一緒にいられなくなったら、俺はきっと……壊れると思う。  想像したら怖くなって、思わず蓮の腕にぎゅっとしがみついた。 「秋さん?」  蓮が俺の顔をのぞき込む。  久しぶりに不安が押し寄せた。  蓮はいつも優しくて俺を大好きでいてくれて、大切に思ってくれているのが毎日痛いほど伝わってくる。だからしばらく不安になんてならなかったのに。 「蓮……好きだ……」  蓮の胸にすがりつく。  いつもの、気持ちがあふれて出た言葉じゃなかった。  蓮に好きって言ってほしい。今好きって聞きたい。好きって言い返してほしくて言った、俺の好きの言葉。 「うん。俺も大好き。愛してる、秋さん」  まぶたにキスが落ちてきた。  蓮の大好きと愛してるが、身体中に染み渡る感じがした。

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