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美月さんはお見通し✦side秋人✦2

 蓮を見上げるとニコッと微笑んで、唇や頬、額にチュッとキスをされ「好き」をくり返される。 「好き」 「ん」 「大好き」 「……ん」 「愛してる」    蓮のキスが『好き』が、止まらない。   「秋さん、好き。大好き。愛してる」 「れ、蓮……?」    あ……これ、好き好き攻撃だ……。  俺が不安になってること、蓮はきっと気付いたんだ。 「好き。すごい好き。大好き秋さん」 「わ、分かった……から。……んっ……」 「本当に大好き」 「ん……分かった」  さすがに恥ずかしい。顔が火照ってきた。蓮は恥ずかしくないんだろうか。 「秋さん可愛いっ」  ぎゅっと抱きつかれたと思ったら、突然お姫様抱っこで蓮が立ち上がる。 「わっ、えっ?」 「秋さん明日オフだよね?」 「そ……だけど、お前は明日めっちゃ早いよな?」 「俺は寝なくても大丈夫」 「いや、コンディションは大事だろっ?」 「うん。コンディションは大事だから、秋さんを朝まで食べますっ」 「……っ、はぁっ?」  お姫様抱っこでベッドに連れていかれた俺は、本当に窓の外がうっすら明るくなるまで抱きつぶされた。  目が覚めて、まだ蓮の腕の中だと分かってホッと息をつく。  いつ寝たのか記憶にないが、意識を失うように眠った気がする。  窓の外はもう明るい。でもまだ蓮の目覚ましが鳴っていないから、それほど眠ってはいないようだ。    ……やばい。声の出しすぎで喉が痛い……。  後ろの重だるいのは、もうこの際いい。でも喉は困る。  オフのあとには、タイミングの悪いことに歌番組の収録があった。  昨夜はめずらしくがっつく蓮が嬉しくて、蓮の腕の中が幸せすぎて、すっかり頭から抜け落ちていた……。  とはいえ、まさか本当に明け方まで抱かれ続けるとは思っていなかった。    時間を確認しようとスマホに手を伸ばすと、その手をぎゅっと握られて驚いた。 「秋さん、起きちゃったの? 眠ってていいのに」 「蓮……もしかして寝てねぇの?」 「ちょっとウトウトしたかな。寝ちゃうと覚醒できない気がして寝れなかった」  蓮らしい理由に、思わず笑ってしまった。 「……なあ。……お前ってさ……」 「うん?」 「お前って……実はすげぇ絶倫だったのな……」 「絶……っ。ごめん秋さん。やっぱりつらかった……?」  ぎゅっと俺を抱きしめてた腕がゆるんで心配そうに見つめてくるその顔は、シュンと耳の垂れたワンコそのものだった。 「……つら……くはねぇけど……。喉がやばい」 「あ、喉……っ。え、どうしようっ、ごめん……っ」  青い顔でオロオロする蓮の頭を、ワシャワシャ撫でてやった。 「こんなのはもう、オフの前日限定だかんな」 「あ……じゃあ今日は……セーフだった……?」 「……ん。今日は一日のど飴舐めまくるわ」  そう言って苦笑すると、蓮はさらに真っ青な顔になって、突然スマホをいじり始めた。 「おい? どした?」  必死にスマホを操作して、真剣な顔で何かを熱心に見ている。のぞき込むと『喉の枯れを治す方法』というタイトルのサイトが表示されていた。  思わず顔がゆるむ。本当に可愛いな俺の蓮。   「ありがとな、蓮」  もう一度頭をワシャワシャしようとしたら、泣きそうな顔で声を上げた。   「喋っちゃだめっっ!」 「ん?」    慌てたようにベッドから降りて素早く下を履くと、クローゼットの中の引き出しをガサゴソあさり出した。 「おーい、蓮?」 「喋っちゃだめだってば! ……あったっ!」  戻ってきた蓮の手には、個包装の不織布マスク。  ピリッと袋を破いて俺の口に当て、ゴムを耳にかける。  それからドタドタと走って、冷蔵庫から水のペットボトルを持ってきた。 「今日はもう喋らないで、水分補給をこまめにしてっ! マスクは保湿の効果があるからずっとつけててね!」 「お、おう」 「喋らないっっ!」 「……ん」  コクコクと頷くと、少しだけホッとしたような顔になって、またドタドタと走って部屋から出ていった。  また冷蔵庫の開ける音がする。  次はなんだ?

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