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可愛い人✦side蓮✦終

 秋さんの目が……笑ってない。口だけ笑って俺を見ている。 「っつうことは、俺は自分に嫉妬してたってことか? そういうことか?」 「……そう……だね? あ……はは……」 「いま何時? ああもうこんな時間か。俺は六時間も自分で自分に嫉妬して悩んで苦しんで泣いたんだな?」 「えっ、な、泣いた……の?」  むくっと秋さんが起き上がる。 「……お前って……ほんっと……っ」とうなるように言って、俺の胸ぐらを掴んで引っ張り起こす。 「ご、ごめん! ごめん秋さ――――」  叫ぶように謝る俺の口を、秋さんの唇がふさいだ。 「ん……っ?」  腕が首に巻き付いて、深い深いキスをされる。秋さんの舌が口内をくすぐるように優しく動く。舌を絡み取られ上顎を舐められ一気に脳がとろけた。 「……バカれん…………」  唇を合わせたまま漏らす秋さんの言葉が、すごく優しい響きで胸がぎゅうっとなった。   「……ご……ごめ、……んっ…………」  お互いの熱い吐息、濡れた唇が合わさる音とリップ音。  秋さんのキスはいつも優しい。すごく優しくて脳も身体もとろける大好きなキス。唇から大好きが伝わってくるあったかいキス。胸が幸せでいっぱいになった。  唇がゆっくり離れていって、秋さんが胸にトンと倒れ込んでくる。 「……ほんっとお前……俺をビビらせる天才だな…………」 「ご、ごめん、本当にっ」 「…………お前……撮影中も……俺のこと思い出してんだ……」 「……うん、思い出してる。あのシーンは、もう堤さんが秋さんに見えてるよ……」 「……ふぅん……。俺も今度やろっかな」 「え? 何を?」 「曲のどっかフレーズ決めて、お前を想像すんの。毎回、必ず。……あ、なんかすげぇ楽しみになってきた」 「えっ! ほ、本気でやるの?」 「お前、見ても気づかなかったらお仕置きだかんな」 「ええっ?!」    もう寝るぞ、と胸を押されてベッドに倒された。  布団にもぐった秋さんが、いつものように俺の腕の中にすっぽりとおさまってくる。  今日はもう背中越しに眠ると覚悟していたから、嬉しくなってぎゅっと腕に力を込めた。 「……ありがとな、蓮」 「うん?」 「次からは……もう安心して、ドキドキしながら観れるよ……」 「……え、ドキドキ……するの?」 「だってお前のあの瞳……俺のことめちゃくちゃ好き好きーって言ってんじゃん……」 「え……え、そうなのっ? うわっ恥ずかし……っ」 「ずっと、俺だけの瞳だって思ってたから……。堤さんを見てんじゃなくて……ほんと……マジでホッとした……。俺……あの瞳……大好き……」  そんなドキドキさせることを言って、秋さんはスーッと眠りに落ちていった。  秋さんが、本当に可愛すぎて愛しすぎて涙がにじむ。  ふと、好き好き攻撃を忘れたことに気がついた。攻撃するどころか逆にされた気分だ。  俺は眠ってしまった可愛い秋さんを抱きしめて、もんもんとしながら眠れない夜をすごした……。  翌朝、寝起きの秋さんに俺は宣言する。 「抱けない夜に可愛いこと言うの、もう絶対に禁止だからっ!」 「…………あ……?」  秋さんは意味が分からんと言いたそうな顔で目をこすり、ポカンとしていた。    end.  

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