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デートしたいっ!✦side秋人✦1
「デートしたいっ!」
蓮が唐突に言った。
「……うん、俺もしたい……けどさ。……いま言うことじゃ、なくね……? ……んっ、あぁっ、……アッ……」
繋がって喘がされながら、まさかのデートの誘い。
蓮は時々びっくり箱みたいだな、と喘ぎながら笑ってしまった。
「あっ、も……だめっ、ああぁ……っっ!」
「くっ、……あぁ……っ!」
果てて二人でくっついて荒い呼吸を整えてると、蓮が再び話しだした。
「明日久しぶりに二人でオフでしょ? さっきまで、イチャイチャいっぱいできるなーって思ってたんだけど、急にデートがしたくなったっ」
紅潮した事後の顔で、満面の笑みを見せる蓮が死ぬほど可愛い。しっぽをフリフリしているのが見えそうだ。
「ほんと、俺のワンコは可愛いな」
笑いがとまらなくて困る。蓮といると本当に一生幸せでいられそうだな、とそんなことを日々思う。
「いいよ。どこ行こっか。変装する? それとも『あきれん』で行く?」
まだ変装してどこかに行ったことはない。あきれんとして食事に行ったり、ショッピングに行ったくらいだ。
一人だとわりと騒がれないのに、二人だとなかなかに人が寄ってくる。
「変装してゆっくりデートしたいけど……絶対にバレると思うなぁ……」
「だよな」
「だってオーラが隠せないもん」
「ん?」
「秋さんのオーラ」
蓮は出会った当初から俺のオーラのことを言うが、己を知らなすぎると思う。
俺に寄ってくる子達はわりとあっさりしている。興奮する子も中にはいるが、だいたい笑顔のまま満足そうに去っていく。
蓮のファンは本気で泣き出す子が多い。そういう子は大抵固まって静かに涙を浮かべているから、一見俺のほうが騒がれているように見えるんだ。
俺には気軽にペタペタさわる人が多いが、蓮には遠巻きに眺める人が多い。
いつまでも知名度が低いままだと思っている蓮には、本当にもっと己を知ってほしいと思う。
「プライベートです、ってアピール程度に変装するか」
「うん、そうしようっ。……でね」
「うん?」
「俺、秋さんと一緒にネズミーシーに行きたい!」
「……おお、マジか」
めちゃくちゃデートだな、と苦笑した。
実のところ俺もちょっと行きたかった。でもあまりにデートすぎてやばいかなという気持ち半分、恥ずくて言えねぇ、が半分だった。
だから蓮に行きたいと言われて、どうしようもなく気分が浮かれた。
「んじゃ、早く寝るか」
「うん、寝よ寝よっ」
二人でサッとシャワーを浴びて布団にもぐる。
……やばい。楽しみすぎて眠れない。
ちらっと蓮を見ると、視線を感じたのかパチッと目を開けた。
お互いに眠れないのが伝わって、二人で吹き出して笑った。
「寝ろって早く」
「秋さんもね」
そんなやり取りすら幸せだった。
翌朝、張り切りすぎだろってくらい早朝に家を出た。
俺も蓮も、外に出るには珍しいラフな服装でキャップをかぶる。まあバレるだろうがこれくらいでいいだろう。
普段は駐車場で眠らせている俺の車に、二人で乗り込んだ。蓮は「秋さんの車!」と早速はしゃいでいる。
「んじゃ、夢の国に行くぞっ」
「うん行こうっ、出発!」
もう二人で朝からハイテンションでおかしい。
蓮は朝からしっぽをフリフリしているし、俺は顔がゆるみっぱなしだ。デートでこんなに浮かれるのは人生初だとはっきりと言い切れる。
エンジンをかけシフトレバーを握り、はたと気づいた。
「あれ、運転中って帽子いいんだっけ」
「ん? どうだっけ……」
「んー、もうこれでいっか」
俺はキャップを後ろかぶりにした。
「秋さん、カッコイイ……っ」
「……マジ? ……今度から後ろかぶりにすっかな」
蓮にカッコイイと言われるのはレアすぎて、すげぇ嬉しい。変装効果はほぼゼロだけど、向こうに着いてもこのままでいたい。
帽子もOK準備万端。「よし、出発!」とアクセルを踏み込んだ。
「……んー。なんかやだな」
「え、何、どうしたの?」
出発して最初の赤信号でこぼした俺の愚痴に、蓮が心配そうな顔を向ける。
「今日は仕方ねぇけどさ。やっぱ車はやだな」
「あ、運転代わろうか?」
「そういうことじゃねぇよ。お前は……やじゃねぇ?」
「え、何が?」
本当に分からないという顔の蓮に、ちょっと不貞腐れ気味に俺は言った。
「……だってお前とくっつけねぇじゃん」
「えっ」
「だってさ。いつもお前と一緒にいてくっつかないのって、トイレくらいじゃね? ……うあー。着くまで耐えられっかな俺。赤信号でキスしてもい?」
なぁんてな、と言おうして蓮に顔を向けると、唇にチュッとキスをされた。
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