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デートしたいっ!✦side秋人✦終

「……蓮不足すぎ……」  やっと食事にありつけたが、当たり前だけど向かい合って座っている。寂しい。 「え? なに?」 「……あ、いや、なんでもねぇ」  やばい。声に出すつもりはなかったのに思わず出てしまった。誰かに聞かれなかっただろうか。  ここで慌てると余計にあやしまれるなと思い、冷静を装った。  蓮にも聞こえなかったんだから大丈夫だろう。 「このあとはどうしようか。秋さん、パレードどうする?」 「うーん、蓮パレード見たい?」 「えっと……アトラクションいっぱいがいいな」  ちょっと言いずらそうにする蓮に笑ってしまった。  否定文で返さないところが蓮らしい。 「俺もパレードはいいや」 「あ、良かった」 「よしっ、いっぱいアトラクション行くぞっ」 「やったっ」  レストランを出て少し歩くと「ああああの、すすすすみませんっ」と、もう今日何度目か分からない呼び止めに合った。  真っ赤な顔で声をかけてきたのは、俺らと同世代くらいの女性。   「ああああの、しゃ、写真撮らせてもらってもいいですかっ?!」  わざわざ声をかけてきたので一緒に撮ってください、かと思ったら違うらしい。一緒になら断るが、撮る分には構わない。というかみんな勝手に撮ってるのに律儀だなと思って笑った。 「どうぞ」 「ああああの、ず、図々しいお願い聞いてもらってもいいいいいいですかっ!」  めちゃくちゃ必死でなんか可愛いなと思った。  蓮を見ると同じ感想を持ったようで、二人で目を合わせ笑った。 「図々しいって何だろう? 言ってみて?」 「あああの、えっと、ドラマの大ファンなんですっ! だからその……手を……」 「手?」 「手を繋いでもらいたいんですっっ!」 「ん? 俺らがってこと?」 「はいっっ!!」  天使が現れた、と思った。  蓮とくっつけるっ! やったっ!  思わずにやけそうになって慌てて顔を引き締めた。 「いいよ。あきれんドラマバージョンね。おっけー」 「え、秋さん本気?」  目が大丈夫なの? と言っている。手つなぎ写真なんか撮らせていいのかってことだろう。  あ、やばい。思わず嬉しくて独断で許可してしまった。 「あ、蓮のほうはダメか? NG?」 「え、いや俺よりも秋さんだよ」 「ただのポーズだろ?」  手を繋いでるところを盗撮されればヤバいが、ただのあきれんポーズだ。問題ない。たぶん。 「ん」  蓮に手を差し出すと、若干呆れた顔で笑ってぎゅっと握ってくれた。  やっと蓮とくっつけた。『蓮ゲージ』が急速に回復していく。嬉しくて幸せで顔がゆるむ。写真を撮るために笑顔になってるだけ。大丈夫、そう見えるはず。  数枚パシャパシャと写真を撮った天使が、「あああありがとうございましたっっ!!」と深々と頭を下げる。  こちらこそありがとう、と言いそうになって飲み込んだ。なにか声をかけなくちゃと一瞬悩んだとき、わっと大勢に囲まれてしまった。  今のを見ていた人達が、私も私もと口をそろえて言った。  蓮と顔を見合わせる。これは全部OKすると大変なことになる。終わりの見えない撮影会になりそうだ。  そのとき、撮影会でひらめいた。 「あ、じゃあ、今から十分間だけ俺らポーズとるから、撮りたい人は前に集まって自由に撮るっていうのでいいですか?」  キャー! やったー! と喜ぶ人達。異論はなさそうでホッとした。  みんなから「ハグしてください!」「腕組んでほしい!」と要望が次々と飛んでくる。  色々ポーズをとるならさっきの天使も。そう思ってまわりを見渡すと、離れていく背中が見えた。  待って天使! 「あの! 今写真撮った方! ちょっと待ってストップ!」  俺が叫ぼうと思ったら蓮が先に叫んでいた。  「え、私?」と天使が振り返る。 「なんか、ガッツリ撮影会になるみたいだから。せっかくだから全部撮って行ってください」  優しく天使に笑いかける蓮がめちゃくちゃカッコイイ……本当に大好きだ。俺の蓮。  天使が嬉しそうに戻ってきた。 「十分間だけね。過激なポーズなしでね!」  俺の言葉にみんなが笑った。  リクエストに答えて、ハグに腕組など色々ポーズをとった。  もう『蓮ゲージ』は満タンで、俺はホクホクだった。    写真を撮られながら、俺もみんなの撮ったその写真がほしいと思った。でももらえるわけがない。俺のスマホで誰かに撮ってもらうかと考えたが、スマホを預けるのは危険だなと諦めた。    約束の十分間が終わると、さっきの天使が言った。 「あああのっ! この写真、SNSにあげてもいいですかっっ?!」  やっぱり天使だ。俺のほしい言葉がなんで分かるんだ?  みんなが俺たちの返事を期待の目で待っている。   「うん、いいよ。あ、でもちゃんと『あきれん撮影会』って書いてね? 勘違いした週刊誌が騒ぐと困るから」  ドッとみんなが笑った。良かった、笑ってくれたとホッとする。  半分本当で、半分うそだ。  ただ俺が検索しやすくしてほしいだけだ。どうしてもその写真がほしいから。  ありがとう天使。感謝の目で見ると、天使の目も潤んでいた。喜んでくれたのかなと思うと俺も嬉しくなった。  みんながお礼を言ってはけていく。  撮影会に間に合わなかった人達も、諦めるように離れて行った。ちゃんと約束を守ってくれた。みんないい人達だな……と胸があったかくなった。 「ごめんな、蓮。事務所大丈夫?」 「うん、たぶん大丈夫。なんか言われても美月さんがなんとかすると思う」 「……うん、だな」  その美月さんの姿は簡単に想像できた。  そのあとは時間いっぱいまでアトラクションを楽しんだ。慌てて自分たち用にお土産を買い、最後は花火を見ながらデートが終わっていく。  めちゃくちゃ楽しすぎた。デート最高! 「蓮、ありがとな」 「え?」 「今日めっちゃ楽しかった」 「うん、最高に楽しかったねっ」 「また、来ような」 「うん、また絶対来ようね」  いまくっついてるのは肩だけだ。  だからまた空っぽになった『蓮ゲージ』はそれほど回復はしないが、もうため息は出ない。  だってもうこのあとは、俺たちの家に帰るだけだから。  もう好きなだけイチャイチャできるところに、帰るだけだから。 「早く帰りてぇ」 「うん、帰ろっか」 「ん」  早く帰ろう、俺たちの家に。  今日はもう朝までずっと、何も身にまとわずベッドでくっついていたい。  ひとまず帰ったらすぐにキスがしたい。  想像だけでゲージが回復していって、幸せすぎるな、と笑みがこぼれた。   end.    次回、おまけのモブ視点です。    

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