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デートしたいっ!おまけモブ視点 前編

 推しが目の前に現れたらどうしよう。  そんな妄想は死ぬほどした。数えきれないくらいした。  でもまさか、現実なるなんていったい誰が想像しただろう。  妹と二人でネズミーシーにやってきて、今レストランの行列に並んでいる。  そして後ろを振り返れば、推しが二人でイチャイチャしていらっしゃる。  イチャイチャとは私の妄想だが、頭の中は自由だからいいのだ。  私は職業柄、口話が読み取れる。声はかすかにしか聞こえないが、口を読めば会話が分かる。  ダメだ。ダメだ。勝手に読んだらダメだ。分かってはいるが……すまぬ、許してくだされ。読んだ内容は絶対に口外しません! 『あ、そうだお土産にチョコクランチ買って帰りてぇっ』 『秋さん意外とチョコ好きだよね』 『うん好き。前にもらったここのチョコクランチ超美味かったんだよ。なんか缶に入ってるやつ。俺二個は食いてぇな』 『じゃあ四個買って帰ろっか』 『なに、お前も二個食うの?』 『秋さん、あとでもっと買えばよかったって言いそうだから』  私の脳内は妄想天国になっていた。  え、なになに、それは四個買って持って帰りなよって意味? ちょっと違うよね? 買って帰ろっかって言ったよ。え、なんか一緒に住んでるっぽく聞こえるのは私だけ??  同じマンションに住んでる二人。これは家を行き来してるとかじゃないね。もう一緒に住んでるね。同棲だね?  ……なわけないか。  ぐふふふ。妄想が膨れる。楽しすぎる。    なんか秋人が元気ないなと思っていたら、『疲れた』と言って蓮にもたれかかった。えっ。なんて眼福っ。  くっつく二人に萌えていたら、なんと肩に頭まで乗せたっ! ぎゃーー! 「あー疲れたー癒されるー」  ここまで聞こえてきた秋人の声。  なになにその取ってつけたような言い訳みたいなのっ。可愛すぎかっ。  蓮のほっぺが赤く見えるのは気のせいなのかっ?!  もう脳内が大変です。心臓がヤバいです。神様本当にありがとうございますっ!  席についてからも、食事をしながらずっと推しを観察していた。 「もう、お姉ちゃん聞いてる?」 「聞いてない。姉ちゃん推し観察で手一杯」 「分かってるよっ。だからさ、後悔しないようにあとで声かけて握手とかしてもらおうよ?」 「は? むむむ無理無理っ。ななな何言ってんのっ」 「もー、こんなときにコミュ障は置いといてさぁ」 「あ! やだめっちゃ席近いっ! どうしようっ!」  二人がななめふたつ隣りに座った。近すぎるヤバすぎる。隣の席の人いいなぁ……。  私からは蓮は背中だけど秋人の顔は見えた。やったっ!  さっきからずっと秋人のため息がとまらない。元気ないなぁ大丈夫かな? と思っていたら、秋人の口話を読み取って手から箸がすべり落ちた。  今なんて言った? 『蓮不足すぎ』って言った? 読み取り間違えた?  そんな訳ない。言った絶対に。  そんなため息つきながら『蓮不足すぎ』って……、二人だけでネズミーシーに来て、ずっと一緒なのに蓮が不足なの?  普通は不足どころか充足では?  そこで私はハッとした。もし私の妄想が妄想じゃなかったら?  二人が一緒に住んでいて、いつもベタベタイチャイチャしてたとしたら?  外ではイチャつけないと我慢していたら?  それは蓮が不足になるだろう。え、そういうことなの?  そんなにため息がとまらないほど蓮不足すぎって、それ以外の意味って何かある?  ヤバい……秋人……可愛すぎかよ……っ!  推しが尊すぎてもう倒れそうです……。  推し二人が立ち上がった。  慌てて私も立ち上がる。   「お姉ちゃん全然食べてないけどっ」 「もう食べれないっ行くよっ」  なんとか秋人に蓮を補充させてあげたい。  もう私の妄想でもなんでもいい。妄想の中の秋人だとしても蓮を補充させてあげたいっ。  だからお願い神様、今だけはコミュ障を封印させてくださいっ!         

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