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デートしたいっ!おまけモブ視点 後編
「ああああの、しゃ、写真撮らせてもらってもいいですかっ?!」
頑張った私っ! 自分で自分を褒めた。
握手をしてもらいたいという自分の願望には動けないが、例え妄想の世界だとしても推しのためには動けるのだと、自分で自分に感動した。
快く承諾してくれた秋人が神様のようだった。
でも本題は秋人の蓮補充だ。そのまま勢いで図々しすぎるお願いをした。
「手を繋いでもらいたいんですっっ!」
「ん? 俺らがってこと?」
「はいっっ!!」
秋人がどう反応するのか不安でじっと見つめていたから分かった。
たぶんファンに見せる用の、よそ行きの顔だった。さっきまでは。
でも今、その瞳が輝いた。
よそ行きの顔が、思わずこぼれたような笑顔になった。
私の脳内フィルターがそう見せているのかもしれない。
でも……。
秋人と蓮はやっぱり……。
どうしよう、鼻血が出そうだ……。
私の図々しいお願いも「おっけー」と快く受けてくれて、はにかみながら手を繋ぐ二人を写真におさめる。
はいチーズの笑顔じゃない、はにかみ笑顔だ。萌えすぎてシャッターをきる指が震えた。
秋人の蓮不足は解消されただろうか。
ちゃんと補充できたかな。できてるといいなと、さっきよりも生き生きしてる秋人をスマホ越しに見つめた。
「あああありがとうございましたっっ!!」
やりきったと思って気が抜けそうになったが、はたと気づく。
秋人はこの写真、ほしいだろうなと。
あげる方法って何がある?
思考を巡らせようとしたとき、わっと大勢の人達に囲まれた。私も私もと大騒ぎだ。
あ……私のせいで迷惑かけちゃったかな……。
二人を見るとちょっと困った顔をしているが、秋人の方はなんだかホクホクしてる気もする。
蓮をもっと補充できて嬉しいのかも。迷惑半分かもしれないけど……でも秋人よかったね。『蓮不足』の本当の意味を私は妄想と混同してるのかもしれないけど、秋人が今嬉しそうなのは分かる。
私役にたったかな。頑張ってよかった。二人を見納めて背中を向けて歩き出す。
「あの! 今写真撮った方! ちょっと待ってストップ!」
え、私のこと?
蓮に呼び止められて驚いて振り返る。
ガッツリ撮影会になるからせっかくなら全部撮って行ってと説明された。どうしよう……推し二人がいい人すぎてもう死にそうです……。
腕組や、肩組み、バックハグは交代で。これ、お金払わなくてもいいのかな? 事務所に怒られない? すごく心配になってしまった。
約束の十分間が終わった。さっき言えなかった言葉を再び勇気を振り絞って言った。
「あああのっ! この写真、SNSにあげてもいいですかっっ?!」
秋人の顔が喜びであふれたように見えた。
私は夢の国で頭がやられちゃったのかもしれない。
もう、秋人が蓮を死ぬほど愛してて、蓮不足になるほどイチャイチャしたくて、写真の一枚も漏らさずほしがっている、そう見えてしまう。
秋人が『あきれん撮影会』と必ず書いてとみんなに説明していた。ああ、うんそうか。そうすれば写真はすぐ検索できるもんね。そういうことだよね?
蓮を見ると、もう本当に愛おしそうに秋人を見ていた。頬もほんのり桃色で、SNS動画そのままの蓮に胸がやられてクラクラした。
推し二人が尊すぎるのですが……。本当に私の妄想なのでしょうか……。
胸が熱くなって涙があふれ、視界がぼやけてきた。
でも撮影会が完全に終了するまで……みんなが解散するまで……二人をこの目に焼きつけよう。
ふと秋人と目が合った。涙が邪魔でちゃんと見えないよ……。秋人ありがとう。私は今日二人から、一生分の幸せをいただきました。
秋人も蓮も可愛すぎて尊すぎて、その上いい人すぎるなんて……ほんと最高かよ……っ!
「お姉ちゃん、よかったねぇっ! コミュ障なのに頑張ったじゃんっ! すごいすごいっ!」
「……うん」
「しっかしあの二人本当にニコイチなんだねぇ。仲良すぎてなんか見てるだけでこっちまでほっこりしちゃったよっ」
「…………」
妹よ……姉ちゃんはそうは見えないんだよ……。
あれはやっぱり、どう考えてもラブラブっていうレベルだよ……。
LIVEで見たあのニコイチ宣言。私はずっと結婚式みたいだなって思ってた。
あれは……きっと本当に二人の結婚式だったんだよ……。
あのチューは、誓のキスだったんだよ……。
オペラグラス越しに読み取った口話にずっと自信がなかった。自分の願望がそう見せたのだと思ってた。だからもう忘れようと思ってた。
『蓮、愛してる』
『俺も愛してる、秋さん』
あれは正解だったんだ……そうなんだ、きっと。
大丈夫。これは墓場まで持って行くよ。
ずっとずっと、二人の幸せを見守ってるね。
二人の写真がSNSにたくさん上がる。『あきれん撮影会』以外の盗撮もきっといっぱい上がるだろう。
今日の二人のデートがデートだとバレずに乗り切れますように……と、私は空を見上げて歩きながら神様に祈った――――。
end.
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