114 / 173

ドッキリ✦side蓮✦3

 秋さんの手はずっと震えていて、今どんな気持ちでいるのかと思うと胸が痛くなる。  俺を見てくれない秋さんに、どうやって合図を送ればいい……?  予定通りに行かずにオロオロしていると、秋さんが「……ごめん」と謝ってきた。 「えっ?」 「……ごめん……俺、……分かったって……言ってやれない……」 「…………っ」 「…………ほんと……待って……。俺……どうしたらいいか……マジ分かんねぇ……」  秋さんの声がどんどん震えて涙声になっていく。  テーブルに片肘を乗せたその手で顔をおおい、深く息をつくその息ですら震えて聞こえた。 「……俺……どうすればいい……? 泣いて……すがればいい……? 怒ればいい……? どうしたら……お前と…………終わらずに済む……? 終わるとか……マジ無理なんだけど…………」  秋さんが涙声で途切れ途切れに言った。  秋さんの言葉が胸に刺さって苦しい……。  ぶわっと感情があふれて一気に涙がこぼれそうになる。  これ以上は危険だ。本当にバレてしまう。いや……もうバレたかも……。   「え、終わるって、そんな大げさな」  加藤さんが戸惑ったような声を出した。  なぁ、と肩を叩かれ加藤さんを見ると、涙目になっている俺を見てギョッとした顔をする。 「え……、え?」  なに、どういうこと? と耳元でささやかれたけど、どう答えたらいいのか分からない。 「……蓮……」  ずずっと鼻をすすりながら秋さんが言った。 「……俺、なにが悪かった……? ……ダ、ダメなとこは……直す、からさ……」 「な、なにも悪くないよっ。ねえ、秋さん、お願いだからちょっと俺を見て?」 「……やだ……むり……怖ぇ……。……なに……これ……。……もう俺…………振られたの……?」 「あ、秋さんっ」  もうダメだ……どうしよう……。  俺は一人だからまだいい。でも秋さんにはグループの仲間もいる。このままじゃ大変なことになる。 「振られたって表現すごいなー! まるで恋人みたいじゃーん。さすが『あきれん』だなー?」  加藤さんが驚いた、といったように声をあげた。  秋さんの身体がぴくりと反応する。 「ごめんなー、親友取っちゃって。一番の友達が取られたらショックだよね? でもニコイチは俺だから諦めて?」  加藤さんが『友達』を強調しながらドッキリを続ける。  肘でつつかれてハッとして加藤さんを見た。 「蓮、ハッキリ言えよ、『親友』は俺だって」  これはもしかして、助け舟を出してくれてる……?  加藤さんにバレたのかもなんてことは、どうでもよかった。もう感謝しかない。  加藤さんの言うニコイチの意味は恋人じゃないと分かったら、何かが変だと気づいてくれるだろうか。   「あ、秋さん、俺、親友はやっぱり真司さんかもって思って。だから……ごめん」  気づいてもらうためとはいえ口にするのもつらい。このドッキリ、普通にありえないなとあらためて思う。  秋さんの顔がゆっくりと上がって目が合った。  やっと俺を見てくれた。嬉しくてまた泣きそうになった。 「……親……友……?」  涙でぐちゃぐちゃになった真っ青な顔で俺を見る秋さんに、慌てて耳たぶをさわって見せた。お願い合図に気づいてっ。  秋さんは目を数回またたいて、そして大きく見開いた。  やっと……やっと伝わった……っ!  すると秋さんがくしゃくしゃに顔をゆがめて、まるで子供が泣くみたいに「ゔぅ〜……っ」と唸っって、ボロボロと泣きだした。    「あ、秋さんっ」  その泣き顔を見たらたまらなくなって、俺もこらえてた涙が流れでてしまった。   「え、おいおい?」  仕掛け人まで泣くなんて、もうどうにも収集がつかない。  分かってるけどもう止まらなかった。  秋さんに演技だと伝わってホッとしたけど、どういう状況なのかまでは伝えられていない。  こんな変な状況で演技中だ。できればドッキリのことまで伝わっていてほしい。カメラで撮られていると伝わっていてほしい。 「俺……蓮とニコイチやめたくねぇよぉ……っ」  秋さんは泣き顔を隠しもせず泣き続けている。  もしかしてこれは、ドッキリ用に演技が始まった……のかな? 「蓮を取られるとか……絶対やだ……っ」 「ええっと……そんなに蓮が好きなの?」  これどうするの? と言いたそうに困った顔で加藤さんは俺を見る。  どうしよう、秋さんカメラのことまで分かってないかも……! 「すげぇ大好き……っ」  あああっどうしようっ!  加藤さんが心配そうに俺に目配せしてくる。ドッキリの進行よりも、俺たちを優先しようとしてくれている。  でもどう言えば不自然じゃなく秋さんを止められるのか、全く分からなかった。   「あ、秋さん、ちょっと待って……っ」 「あー……ここまで親友として好かれてたら蓮も嬉しいよなっ?」  加藤さんが一生懸命『親友』を強調してくれる。やばいよ? という目で俺を見てくる。 「違う……親友じゃない……」    秋さんが首を振った。  ギクリとして緊張走った。  

ともだちにシェアしよう!