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ドッキリ✦side蓮✦3
秋さんの手はずっと震えていて、今どんな気持ちでいるのかと思うと胸が痛くなる。
俺を見てくれない秋さんに、どうやって合図を送ればいい……?
予定通りに行かずにオロオロしていると、秋さんが「……ごめん」と謝ってきた。
「えっ?」
「……ごめん……俺、……分かったって……言ってやれない……」
「…………っ」
「…………ほんと……待って……。俺……どうしたらいいか……マジ分かんねぇ……」
秋さんの声がどんどん震えて涙声になっていく。
テーブルに片肘を乗せたその手で顔をおおい、深く息をつくその息ですら震えて聞こえた。
「……俺……どうすればいい……? 泣いて……すがればいい……? 怒ればいい……? どうしたら……お前と…………終わらずに済む……? 終わるとか……マジ無理なんだけど…………」
秋さんが涙声で途切れ途切れに言った。
秋さんの言葉が胸に刺さって苦しい……。
ぶわっと感情があふれて一気に涙がこぼれそうになる。
これ以上は危険だ。本当にバレてしまう。いや……もうバレたかも……。
「え、終わるって、そんな大げさな」
加藤さんが戸惑ったような声を出した。
なぁ、と肩を叩かれ加藤さんを見ると、涙目になっている俺を見てギョッとした顔をする。
「え……、え?」
なに、どういうこと? と耳元でささやかれたけど、どう答えたらいいのか分からない。
「……蓮……」
ずずっと鼻をすすりながら秋さんが言った。
「……俺、なにが悪かった……? ……ダ、ダメなとこは……直す、からさ……」
「な、なにも悪くないよっ。ねえ、秋さん、お願いだからちょっと俺を見て?」
「……やだ……むり……怖ぇ……。……なに……これ……。……もう俺…………振られたの……?」
「あ、秋さんっ」
もうダメだ……どうしよう……。
俺は一人だからまだいい。でも秋さんにはグループの仲間もいる。このままじゃ大変なことになる。
「振られたって表現すごいなー! まるで恋人みたいじゃーん。さすが『あきれん』だなー?」
加藤さんが驚いた、といったように声をあげた。
秋さんの身体がぴくりと反応する。
「ごめんなー、親友取っちゃって。一番の友達が取られたらショックだよね? でもニコイチは俺だから諦めて?」
加藤さんが『友達』を強調しながらドッキリを続ける。
肘でつつかれてハッとして加藤さんを見た。
「蓮、ハッキリ言えよ、『親友』は俺だって」
これはもしかして、助け舟を出してくれてる……?
加藤さんにバレたのかもなんてことは、どうでもよかった。もう感謝しかない。
加藤さんの言うニコイチの意味は恋人じゃないと分かったら、何かが変だと気づいてくれるだろうか。
「あ、秋さん、俺、親友はやっぱり真司さんかもって思って。だから……ごめん」
気づいてもらうためとはいえ口にするのもつらい。このドッキリ、普通にありえないなとあらためて思う。
秋さんの顔がゆっくりと上がって目が合った。
やっと俺を見てくれた。嬉しくてまた泣きそうになった。
「……親……友……?」
涙でぐちゃぐちゃになった真っ青な顔で俺を見る秋さんに、慌てて耳たぶをさわって見せた。お願い合図に気づいてっ。
秋さんは目を数回またたいて、そして大きく見開いた。
やっと……やっと伝わった……っ!
すると秋さんがくしゃくしゃに顔をゆがめて、まるで子供が泣くみたいに「ゔぅ〜……っ」と唸っって、ボロボロと泣きだした。
「あ、秋さんっ」
その泣き顔を見たらたまらなくなって、俺もこらえてた涙が流れでてしまった。
「え、おいおい?」
仕掛け人まで泣くなんて、もうどうにも収集がつかない。
分かってるけどもう止まらなかった。
秋さんに演技だと伝わってホッとしたけど、どういう状況なのかまでは伝えられていない。
こんな変な状況で演技中だ。できればドッキリのことまで伝わっていてほしい。カメラで撮られていると伝わっていてほしい。
「俺……蓮とニコイチやめたくねぇよぉ……っ」
秋さんは泣き顔を隠しもせず泣き続けている。
もしかしてこれは、ドッキリ用に演技が始まった……のかな?
「蓮を取られるとか……絶対やだ……っ」
「ええっと……そんなに蓮が好きなの?」
これどうするの? と言いたそうに困った顔で加藤さんは俺を見る。
どうしよう、秋さんカメラのことまで分かってないかも……!
「すげぇ大好き……っ」
あああっどうしようっ!
加藤さんが心配そうに俺に目配せしてくる。ドッキリの進行よりも、俺たちを優先しようとしてくれている。
でもどう言えば不自然じゃなく秋さんを止められるのか、全く分からなかった。
「あ、秋さん、ちょっと待って……っ」
「あー……ここまで親友として好かれてたら蓮も嬉しいよなっ?」
加藤さんが一生懸命『親友』を強調してくれる。やばいよ? という目で俺を見てくる。
「違う……親友じゃない……」
秋さんが首を振った。
ギクリとして緊張走った。
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