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ドッキリ✦side蓮✦5

「秋さん、泣かないで……っ。本当にごめんね」  そんなに気持ちを張り詰めていたんだと知って、胸が痛いくらい苦しくなる。   「……蓮ごめん。俺……絶対泣くと思って……なんも喋れなくて……。ほんと……お前のことになると俺……すぐ弱くなって……ごめん……」 「秋さん謝らないで……っ」    ああ、だからずっと無言だったんだと納得した。  秋さんは弱い自分をいつも隠そうとする。  弱くなったらいつでも言ってと伝えてあるのに。 「……も……お前と終わっちゃうかと思った……。目の前……真っ暗んなった……。すげぇ……怖かった……」 「秋さん、俺たち、絶対に終わらないよ」  ぎゅうっときつく抱きしめて、背中を優しくさすった。   「……蓮…………蓮……頼むから……ずっとお前の側にいさせて……」  すがりつくようにしがみついて震える秋さんに、胸が締めつけられる。秋さんはもっと苦しかったんだと思うと俺も涙が出てきた。  秋さんを抱きしめながら頭を支え、そっと枕に沈ませた。涙で濡れた秋さんの頬を指でぬぐい、次々と涙が流れ落ちていく目尻にキスをする。 「俺は秋さんをずっと離さないから。ずっと側にいるから。だからずっとずっと、俺の隣にいてください」 「…………っ」     秋さんは顔をくしゃくしゃにしてボロボロと泣いた。  秋さんをこんなにも傷つけたドッキリを、本当に心の底から恨む。   「れん……」 「うん?」 「……好き……すぎて、ほんと……ごめん、な……」  涙で喉を詰まらせながら途切れ途切れに、もう今まで何度も聞いた「好きすぎてごめん」を伝えてくる。 「俺のほうが、もっと好きだからね。秋さんより、もっとずっと愛してる」  俺を好きすぎて不安で弱くなる秋さんが、愛おしいすぎて胸がはりさけそうになる。俺は震える秋さんの唇にそっと優しく口付けをした。 「……んっ、……れ……ん、……れん……」  深く深くキスを交わしながら、秋さんは何度も俺の名を呼んだ。  お互いの名前を呼び合いながら、気持ちを確かめるような、安心を求めるような、優しい口付けをした。 「……ん、……れん……愛してる…………れん……」  唇から秋さんの気持ちが流れ込んでくるようで、胸が熱くなって俺の涙も止まらない。  二人で泣きながら「愛してる」を言い合って、いつまでもキスをした。 「れん……」 「うん?」 「ずっと……俺だけの蓮でいて……お願いだから……」 「うん、ずっと秋さんの蓮だし、俺だけの秋さんだからね」 「ん……うん……」  ぎゅうっと苦しいくらいに抱きしめてくる秋さんの頭を、優しく撫でた。 「……弱いのは……今日だけにするから……。だから今日は……朝まで抱いてくれ……」 「弱いのも可愛いから、大好きだって言ってるのに」  泣きながらクスッと笑うと、秋さんはもっと泣いてしまった。 「……も……弱ってるときにやめろって……ばか……」  それからはもう、ひたすら甘やかすように優しく秋さんを抱いた。  深く深く繋がって、秋さんは何度も「れん」と「愛してる」を繰り返す。いつも以上にキスをねだる秋さんに、胸が切なくなった。本当に愛おしすぎておかしくなりそうだ。  秋さんに出会えたこと、俺を好きになってくれたこと、全てが奇跡だと今でも思う。  そんな奇跡を、俺は手放さない。絶対に。全身で愛してると伝えてくる秋さんを抱きながら、俺は心に固く誓った。   「あああーーーもう良かったーーーっっ! 生きた心地がしなかったわ……」  美月さんがソファに倒れ込む。  昨夜とうとうドッキリが放送された。  今朝のネットニュースの見出しがすごかった。 『あきれん号泣! ドッキリに非難殺到』 『秋人号泣! 仕掛け人蓮も泣きだす前代未聞のドッキリ』 『再び「あきれん尊い」トレンド入り』  撮影現場でも疑われた様子はなかったけれど、世間がどう反応するかが問題だった。  ちょっとでも疑われればそこから火がつく。  でも心配は杞憂に終わった。朝から家に集まった美月さんと榊さんと、四人で胸を撫で下ろした。 「合図が間に合って良かった……」 「……本当に……すみませんでした……」  榊さんの言葉に秋さんがうなだれるように俯いた。 「仕方ないわよねっ。だってドッキリだものっ。騙されて当然だものっ! あーーーでも本当に良かったーーーっっ!」  秋さんの「大親友」という言葉と、「結婚して子供ができても」が決定打だったようだ。  あれだけ泣いても、その言葉の効力は大きかった。もともと世間にぽつぽつと広がっていた、もしかして……という疑惑すら払拭された。 『なぁんだ、素でも親友って言い切るならやっぱり親友なんじゃんね』 『この二人怪しいって一部で言われてたけど、やっぱ最高の親友だねっ!』  SNSで見たつぶやきを思い出す。  普段はあえてSNSを見ない俺も、昨夜はさすがに寝ずに検索し続けた。秋さんが、すぐに合図に気づけなかった自分をずっと責め続けていて、少しでも早く安心させてあげたかったから。 「秋さん、もう自分を責めないでね」 「……ん」 「大丈夫だ秋人。トレンド一位おめでとう」 「そうだよ秋さんっ! おめでとう!」 「秋人くん本当におめでとうっ!」  みんなでおめでとうと言うと、秋さんはさらにうなだれた。  

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