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実家に行く✦side蓮✦1

「蓮。明日ちょっとドライブしよ」  二人のオフが重なって、なにをしようかと話したのが今朝だった。  帰ってきたら秋さんがニコニコ顔でドライブを提案してきた。 「ドライブいいねっ。どこ行くの?」 「神奈川」 「神奈川ドライブっ。いいねっ。目的地は?」 「んー内緒」  すごく楽しそうな秋さんに、こっちまで笑顔になった。  なんだかすごく楽しみになってきた。 「……えっ、えっ? 待って秋さん……! こ、ここどこ……??」 「俺の実家」 「えっっ?!」  住宅地の一軒家に駐車して、秋さんはさっさと車を降りてしまった。  俺は固まって車から降りることができない。  え、え、急に実家って……うそだよね?!  なにも挨拶とか考えてないし……っていうか手土産もないんだけどっっ!!  ガチャッとドアを開けられて、ビクッと身体がはねた。 「蓮ー。早く降りろって」 「だ、だ、だって……秋さん……」 「もー。大丈夫だって。ほら」  手を引かれて無理矢理車から降ろされた。そのまま引っ張られてとうとう玄関前まで来てしまう。 「ち、ち、ちょっと待って! ストップ!」 「どした?」 「どした……じゃなくてっ。これは……どっちのつもりで行けばいいの?」 「どっちって?」 「だから……親友のニコイチとしてなのか、それとも……俺たちのニコイチとしてなのか……」 「そんなの、俺たちのに決まってんじゃん」 「きっ! 決まってるのっ?! え、あの、俺たちのことは……もう知ってるの?」  そう聞くと秋さんは俺を見上げて、くふふと笑って「知ってるわけねぇじゃん」と楽しそうに言った。 「ま、ま、待って、待って、俺どうしたら……」 「大丈夫だって」    秋さんがドアに鍵を差し込んで、ガチャリとドアを開けた。 「ただいまー」  俺の手を引いて中に入ると、秋さんは中に聞こえるように大きな声を上げた。  中のドアから綺麗な女性が顔を出し、小走りでこちらにやってきた。 「まーー! いらっしゃいっ! きゃーー! 本当にカッコイイ! 蓮くん!」  両手を口に当てて俺を見上げるその人は、秋さんよりも小柄で、肩まである真っ直ぐなストレートの髪がサラサラとゆれて、秋さんを女性にしたらこんな感じ、という様なとても綺麗な人だった。   「あ……は、初めまして。神宮寺蓮です。あの……手土産もなにもなく来てしまいまして……」 「いいのよーそんなのっ。ささ入って入ってっ!」    テンションの高さに圧倒されてしどろもどろになってしまった。  秋さんってお姉さんいたっけ……? まさか……お母さん……?  秋さんに耳元でこっそりと聞いた。   「あ、秋さん……あの、いまのってお姉さん?」 「は? お前、目大丈夫か? どっからどう見ても母さんだろ。それに俺は一人っ子だって」 「ええ……っ、若すぎるよ……」  秋さんと並んでいたらお姉さんにしか見えない。  秋さんの美しさはお母さん譲りなんだな、と納得した。    「母さーん、蓮がいまのってお姉さん? だって」 「えーー! やだーー! 蓮くんってば!」  耳元でこっそり聞いた意味は……。 「蓮、そこ座って待ってて」 「あ、うん」  俺はソファに座って、どこかに行ってしまった秋さんとお母さんを待つ。  カントリー風のインテリアが優しい雰囲気で好きだな、と思った。秋さんのお母さんにイメージがピタリだ。  廊下がガヤガヤして、秋さんがお母さんと一緒に戻ってきた。 「ごめん蓮、おまたせ」  そう言って秋さんが俺の隣に腰を下ろす。 「お父さん、早く!」  お母さんが廊下を振り返って手招きして、少しふっくらした人の良さそうなお父さんが、土だらけの手で入って来る。 「お! おお! 蓮くんだねー? 初めまして、秋人の父です」  慌てて立ち上がって挨拶をした。 「は、初めまして、神宮寺蓮です。お、おじゃましていますっ」  あとはなにを言えばいいんだろう……っ。全然わからないっ。ちゃんと考えて準備してから挨拶したかった……っ。もう秋さんのバカーっ。 「本当にイケメンくんだねぇ。あ、こんな格好でごめんね、庭いじりをしていたもんだから。ちょっと手を洗ってくるよ」 「お父さん早くねー!」  キッチンからお母さんの声。   「わかったわかった」  お母さんにせかされたお父さんが、キッチンの横に入っていく。  秋さんに手をクイッと引かれて、ハッとして俺はまたソファに腰を下ろした。 「来るって言ってあったのにバタバタしてんなぁ」  呆れたように苦笑いを浮かべて、秋さんが「はぁ」とため息をついた。   「なんか、秋さんの家族って感じだね」 「そうか?」  まだ挨拶しかしてないけど、二人の優しい空気が心地いい。  お父さんが手を洗って戻ってくる頃には、テーブルにコーヒーとお茶菓子が並べられていた。   「秋人が帰ってくるの久しぶりだなぁ? いつぶりだ?」 「んー。三年は帰ってなかったかな?」 「え、秋さんそんなに帰ってなかったの?」  俺はびっくりして声を上げた。 「正月はライブだし、なんか帰るタイミングないんだよな」 「あ、なるほど……」 「ほんと、久しぶりに帰ってきてくれて嬉しいわ!」  ニコニコ笑顔で手を合わせて喜ぶお母さんに、秋さんはふはっと笑った。   「母さんは蓮に会いたかっただけだろ」 「もう、なに言ってるのっ? 蓮くんには確かにすごーく会いたかったけど。秋人にだってすごくすごく会いたかったに決まってるでしょう?」  とプリプリ怒るお母さんに、秋さんが「はいはい」と言ってまた笑う。 「俺らのドラマ観てから蓮の大ファンらしいよ。いま昔の作品観漁ってるんだってさ」 「えっ、すごい嬉しいですっ! ありがとうございますっ!」 「こちらこそっ! 秋人と一緒に遊びに来てくれて、会えて本当に嬉しいわぁ!」    お母さんに昔の作品の話を色々聞かれて答えながら、社交辞令じゃなく本当にちゃんと観てくれたんだ、と泣きたくなるくらい嬉しくなった。   「んで、今日はちょっと話があって来たんだよね」  秋さんの言葉にビクッとなった。一気に緊張が走る。  秋さんは少しも間を置かず、すぐに先を続けた。   「俺さ。蓮と付き合ってるんだ。恋人なんだ。で、いつかは結婚式挙げたいと思ってる」 「ええーーーーッッ?!」 「なんだとッッ?!」  秋さんの言葉にかぶるようなお母さんの叫び声で、驚いて心臓がはねた。  お母さんは、これでもかというほど大きく目を見開いて固まっていた。 「お前らは男同士だろうッッ!!」  お父さんが怒鳴り声を上げた。  

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