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大晦日〜年越し✦side蓮✦3

 一曲目が終わった。  秋さんが客席に向かって声を張る。 『みんなー! いまこれテレビに映ってるよー!』  わっと歓声が上がった。 『テレビの前の皆さーん! ただいま俺たちPROUDのライブ会場からお送りしていまーす!』   秋さんの表情がテレビ用に変わってホッとする。  まだドキドキがおさまらない。  リュウジさんがあとを引き継いだ。 『年越しまであと五分ですよー! カウントダウンのあと、もう一曲歌います! もうしばらく俺たちに付き合ってねー!』  会場に響く歓声と拍手。  そのあとは、ライブ会場の興奮が伝わる楽しいMCが始まった。  リュウジさんと京さんがメインにMCをまわして、秋さんはニコニコ笑って相づちを打つ。  やっぱり生で観たかったな。いまそこで秋さんが頑張ってる。テレビで観ていると、秋さんが映らないときもあるからもどかしくなる。会場で秋さんだけを見ていたかった。 『秋人ー。今日はニコイチ蓮くんはなにしてるんだー?』  俺たちのことを知らないメンバーからの質問が飛んだ。  俺のことはいいからお願い話題を変えて……。   『え、蓮? うーん、たぶん一人で面倒くさがって、カップ麺で年越しそばだと思うんだよなー。んでいまこれ観てると思う』 『おーさすがニコイチ、なんでもお見通しか?』 『いや、適当ー』 『適当かよっ』  秋さんに言い当てられて恥ずかしくなった。たまにこっそりカップ麺を食べてるのはバレていないと思ってた。知ってたんだ……。 『正月はニコイチでラブラブするのかー?』  俺の話が終わらない。ラブラブって表現は冗談でもやめてほしい……。どこから火がつくかわからないから怖い。   『ははっ。うんするよー。蓮が元旦の仕事終わったら久しぶりにオフかぶるんだよね。だからどっか行くかーって話してんだ』  キャーーー!  客席からの歓声が響き渡った。  あきれんーーー!   という声も聞こえる。    『冗談だったのにっ。マジかっ! ほんっとに仲良しだなーっ』  ……やばいどうしよう。姉さんこれ観てるかな。  仕事じゃないとバレてしまう……とオロオロした。  姉さんすっかり秋さんファンだし観てるだろうな。やばい……。  でも今のイジリに否定すれば、せっかくの連休に二人でどこにも出かけられなくなる。秋さんもこう返すしかなかったんだ。俺がウソをついたのが間違いだった……。  スマホが鳴るかドキドキしたけどまだ鳴らない。怖すぎる。   年越しカウントダウンが始まった。  テレビ越しにでも、秋さんと年越しを迎えられるのがちょっと嬉しい。 『三、二、一、ハッピーニューイヤーーーー!!』  ステージの両サイドから火花が上がる。  大歓声の中、二曲目が始まった。  一曲目のバラードから一転、激しいダンスからスタートした。  はぁ……俺の秋さんがカッコ良すぎる……。  オーラでキラキラしたステージの秋さんを観るたび、俺の恋人だなんて本当に奇跡だなと思う。  秋さんが俺を想像しながら歌ったフレーズにも『奇跡』の言葉があった。秋さんも同じ気持ちでいてくれていると思うと、嬉しくて心が震える。俺は本当に幸せだ。  曲が終わるとまた八人のシルエットに戻り、次のアーティストのテロップが出る。PROUDの出番が終わった。  俺はすぐに録画の編集作業に入る。PROUDだけを切り取り、ファイルに鍵を付けた。秋さんの動画がまたひとつ増えた。気分がホクホクした。  エンドレス再生でもしようかと思ったところにスマホが鳴って、思わずリモコンを取り落とす。とうとう来た……っ。  恐る恐る画面を見ると案の定姉さんの名前。でも電話ではなかった。 「あ……メッセージ……」    ホッとしつつ開くのをためらう。なにが書かれているんだろう……。心臓がバクバクする。  怖いけど悩んでも仕方ない。俺は思い切ってメッセージを開いた。  色々と問い詰められるのを覚悟したけど、メッセージは短かった。 『もしかして、私は秋人くんって呼んだ方がいいのかな?』  とだけ書かれていた。  芸能人の秋人だから、私には遠い存在だから、と言っていた姉さんが『秋人くん』と呼ぶ。それにはきっとすごく深い意味がある。  様子がおかしくて、仕事もウソで、さらに秋さんと過ごすとわかったら勘づかれて当たり前か……。  色々聞きたいだろうに、問い詰めたいだろうに、それでも我慢してきっと色々考えて、俺が答えやすい質問で送ってくれたんだろう。  反対はしない。他言はしない。姉さんの思いがすべてこの短いメッセージの中に詰まっていると、俺にはわかる。  安堵と嬉しさで胸がいっぱいで、思わず涙がにじんだ。  どう説明しようかと、既読をつけてからしばらく悩んだ。けれど俺は『お願いします』と一言だけ返信した。  するとまたすぐに返事が返ってくる。   『秋人くんに、蓮をよろしくお願いしますと伝えてね。あと、雫の呼び捨てが直るまで待っててー!』    最後の一文に笑いがもれた。  まさか姉さんに少しも反対されず認めてもらえるなんて、思いもしなかった。すごく嬉しくて目頭が熱くなった。  秋さんにも早く伝えたくてうずうずする。でも軽く打ち上げもするから帰宅は朝方だと言っていたし、話ができるのは夜かな……。    編集したライブを悶絶しそうになりながら五回ほど観て、このままじゃキリがないなと腰を上げた。  寝る準備を整えてベッドにもぐると、俺は簡単に眠りに落ちていった。

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