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大晦日〜年越し✦side蓮✦4

 モゾモゾと腕の中でなにかが動く感触に、ぼんやりと意識が戻った。   「……れん。俺のれんー。好きぃ。めっちゃ好き。うー……好きぃ。愛してるー……」    大好きな秋さんの声だ、と嬉しくなって気分がふわふわした。胸にグリグリと顔を押し付けてくる秋さんの頭をそっと撫でる。 「んぁ……? 起きたぁ? 俺のれん、起きたぁ?」 「秋さん……可愛い……ん、お酒くさい……」  ぼやっとした頭で、めずらしいなと思って笑った。 「れんー。ぎゅってしてー。んぁ、まって。やっぱキスがいぃ。キスー」 「ふふ……うん……」  頭がぽわぽわしたまま、腕の中にいる秋さんにキスをした。お酒の匂いよりも歯みがき粉の味でスースーするのが、秋さんらしいなと笑みがもれた。  ついばむように優しいキスを繰り返す。俺のうなじをスルスルと撫でる秋さんの手が気持ちいい。 「……ん、……れん……」    可愛く甘えるように動く秋さんの舌に、俺も同じように返す。本気モードじゃない甘えたキスに、二人でクスクス笑いながら舌を絡めた。 「れん、迎え何時ー?」 「……ん? えーと……?」 「あ、そだそだ、いま寝起きだったぁ。れん寝起きじゃーん。そりゃ答えらんねぇよなぁ。ふはっ」  目覚まし鳴るからいっかぁ、と言って俺の胸に顔をうずめた。 「秋さん、いま何時……?」 「ん? んー、まだ暗いー」    俺はとりあえず秋さんが酔っ払いだということは理解できた。秋さんの言うとおり、目覚ましが鳴るまではゆっくりできるから大丈夫だ。   「なぁなぁれん、おれさぁ、お前におねがいあるんだけどー」 「うん、なに……?」 「いまおれ全然弱ってねぇけどさぁ。すっげぇ幸せで怖いくらいだけどさぁ。あれやってほしいあれ」 「ん? なに……?」 「好き好き攻撃ー」 「え……」  なぁやって? なぁなぁ、と胸に顔をグリグリ押し付けてくる。  あれ、俺もしかしてまだ寝てる? これ夢かな? 秋さんがこんなこと本当に言う……?  本当に弱ったときですらお願いされたことはない。  でも夢でもなんでも、そんな可愛いお願いいくらでも喜んでやってあげる。 「秋さん、好き。大好き。愛してる……」 「……んー、違うー」 「え、違う……?」 「好き好き言いながら目とか鼻とかほっぺとか、チュッチュッてするやつだよ。あれやって」  俺はまだ眠い目をまたたいた。  秋さんは目を閉じると「ん」と言ってキスを待つ。  待って待って。本当にこれ現実? 秋さんどれだけ酔っ払いなんだろう。もう可愛すぎて死にそうだ。  俺は目に鼻に頬に額に、顔中にキスを落として好き好き攻撃をした。 「秋さん、好き」 「……ん」 「大好き」 「……ん」 「愛してる」 「……ん……もっと」  ちょっと長めに唇にキスをして、また顔中にキスと好きを繰り返す。 「世界で一番好き」 「ふは、……ん」 「昨日より大好き」 「……ん、うん」 「明日はもっと愛してる」 「ははっ。うん、俺もぉ。めっちゃ愛してる」  最後に唇にチュッとキスをすると、またなにかを期待する目で俺を見つめた。 「あとさ、あとさ、キスマつけて」 「……え? キスマ……? キスマーク?」 「そそ。首、首がいー」 「えっ。ダメダメっそれはダメっ!」 「いいじゃん、おれ五連休だしさぁ。オフ明けも撮影とかねぇしぃ」 「五連休……」  ちょっとづつ目が覚めてくる。そうか、今日から秋さん五連休か。 「なぁ、いいじゃん、つけて。軽くでいいからさぁ。キスマー」  キスマークをつけてなんて初めて言われた。俺たちは仕事柄、絶対につけたらダメだと思っていたし、秋さんもそう思っていると思う。 「秋さん、酔いが覚めたら後悔するかも。俺怒られるかも」 「ないない。だって俺、五連休ってわかってから、ずっとつけてもらおうと思ってたもん」 「え……酔ってるからじゃないの?」 「もう連休なんていつあるかわかんねぇだろ? なぁ、いいじゃんつけて?」  また「ん」と言って首を反るようにしてこちらに向ける。 「あ……あとで怒らない?」 「怒んない。喜ぶー」 「……さ、鎖骨でいい?」 「くびー」 「いや、でも……。いや、やっぱり首はダメ」 「えー。……むー。……じゃあ鎖骨でいい」 「……うん」  鎖骨にキスをしようとして、秋さんがまだ服のままだということにやっと気づく。  本当に酔っ払ってるんだな。秋さんがパジャマにも着替えず寝ようとするなんて初めてだ。  セーターとシャツの首元を少し下げて、ドキドキしながら鎖骨にキスを落とし、初めて本気でジュッと吸い付いた。 「……んんっ……」  唇を離すと、秋さんの白い肌に紅い華が咲いた。  初めて付けたキスマークにドキドキする。 「ついた? キスマついた?」 「……うん。ついた」 「マジ? マジで?」  秋さんが枕元のスマホを手に取って操作して、首元を出すように服を下げスマホをかざした。 「……うわ。うわ。キスマだ。やべ……めっちゃ嬉しい」  頬を桃色に染めた秋さんが、かざしたスマホでカシャッと音をたてる。 「……えっ。まさか写真撮った?」 「うん、撮ったー」 「え、ダメだよそんなの残しちゃっ」 「だって撮んなきゃ消えちゃうじゃん」 「誰かに見られたらどうするのっ」 「誰にも見せねぇってー」  秋さんのスマホを取り上げると「あ、もー。お前それ消しても俺また撮るかんな」と言って、また俺の胸に顔をうずめた。   「あーやべぇ……すげぇ嬉しい……」 「……そんなにキスマーク、嬉しい?」 「うん。めっちゃ嬉しー。だってずっとつけてほしかったんだもん。あー……誰かに自慢してぇ……」  だからその胸に顔グリグリするの、可愛すぎるからやめてほしい……。 「俺さぁ。朝起きたらついキスマ探しちゃうんだよな。お前がつけるわけねぇってわかってんのに……。んで、やっぱねぇよなぁってガッカリすんのぉ……」 「…………っ」  秋さんがそんなにキスマークをつけてほしかったなんて、全然知らなかった。キスマークを探してガッカリする秋さんを想像するとなんだか胸が痛い。いつでもつけてあげたいのにそれは無理だから。

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