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嫉妬✦side秋人✦ 1 ※
「秋さん、ごめんなさい……」
蓮が帰ってきて早々謝ってくる。
「なに、どうした?」
泣きそうになってる蓮の手を引いてソファに座り、言いずらそうに口ごもる蓮をなだめた。
どうしたんだよ。こんな蓮は今まで見たことがない。
それでも、こんなときでも俺は安心した。蓮の瞳が痛いほど俺への愛であふれてる。なんの謝罪かは全く分からないのに、不安はなかった。俺は蓮がそばにいてくれれば何も怖くない。蓮が離れていくことだけが何より怖い。
……離れていくとかじゃねぇよな?
「秋さん……本当にごめんなさい」
「いいから、話してみ? 大丈夫だって」
頭をワシャワシャ撫でると、目に涙をためた蓮がやっと消え入りそうな声を発した。
「どうしても……断れなかったんだ……」
「何を?」
「…………」
「大丈夫だって。安心して話せよ。何を断れなかった?」
蓮がポロっと涙を流して、やっと肝心な言葉を口にした。
「次のドラマ……恋愛ドラマになっちゃった……ごめん……秋さん」
ん? 恋愛ドラマが決まったからってこんな状態になってんの?
「……なんだよ、ビビるじゃん」
もっと何か大変なことかと思った。俺はホッとして蓮の胸に顔をうずめた。
「そんなことか……」
「えっ……だって……」
「蓮は俺と違って俳優じゃん? 恋愛ドラマなんて当たり前だろ?」
「でも……っ!」
「大丈夫だって。演技じゃん。俺は大丈夫だよ蓮」
本当は大丈夫じゃない。そんなことか、なんて本当は思えない。
でも、蓮の足を引っ張るわけにはいかない。俺はアーティストで俳優じゃないからある程度融通が効く。でも蓮は違う。蓮は俳優で、演技が本職だ。恋愛ドラマを避けるわけにはいかないんだ。
「もしかしてずっと断ってたのか? それ変に思われるだろ」
「……思われたっていい。キスシーンなんてやりたくない」
「蓮。お前俳優だろ? 仕事じゃん。結婚したってみんなやってるんだから。やんなきゃダメだ」
「……秋さん」
「大丈夫だって。テレビの中は演技だって、俺ちゃんと割り切れるから」
「……秋さんっ、ごめん……っ」
「うん。そのかわりさ」
「なに? なんでも言って!」
「そのかわり、キスシーンの日は朝も夜もたっぷりキスしような? あと放送日は絶対教えろよ。知らずに観たら俺の心臓壊れるからさ」
「うん……うん……」
俺が蓮の足を引っ張るわけにはいかない。へっちゃらな顔しないと。
「てか、キスシーンってことは主役か?」
「ううん。俺が相手役」
「準主役か。すげぇじゃん。もうすっかり主役級だな」
「……まだまだだよ。主役は秋さんとのダブル主演だけだし」
「相手役なんて主役みたいなもんだろ」
「…………俺、脇役でいい。キスシーンなんてやりたくない」
「ばぁか。そんなん役者失格だぞ?」
本格的に泣き出した蓮を優しく抱きしめる。
蓮が恋愛ドラマをずっと断っていたなんて知らなかった。
たぶん俺のせいだ。以前、俺が蓮の前で『次が恋愛ドラマじゃなくてよかった』とこぼしたからだ。
俺が先に気づいてちゃんと言ってやるべきだった。ごめんな、蓮。
今回の蓮のドラマは大学が舞台。また男らしい役柄で、放送が始まると蓮の人気がどんどん急上昇していった。
放送日は毎回トレンド入りし、テレビの前で倒れるファンが続出。
そんな俺も倒れそうだ。……恥ずかしすぎて。
ドラマ中盤、どんどん甘くなっていく蓮の演技。そんな蓮を見てすぐに分かった。
あのときと同じだ。俺が刑事ドラマで嫉妬した、あのときと。
ドラマでの蓮の瞳は、俺を見るときと同じ瞳。見つめられるだけで愛されてると伝わる熱い瞳。
「蓮……役作りちゃんとやってるか?」
「や……やってるよ。なんで?」
「……やってる? ほんとに? これ役に入り込んでる?」
役作りをしてると言い張る蓮をじっと見つめると、じわじわと赤面してクッションに顔をうずめた。
「ご……ごめんなさい。だって……秋さんだと思ってやらないと好きって演技できなくて……」
「……それ、役者としては失格だぞ?」
実のところ、どんな蓮を見せられるのかとドキドキしてた。観た瞬間嫉妬しそうで怖かった。一話、二話と進むにつれて怖くなり、観るのをやめようかと実は思っていた。
ところが、だんだん甘くなるにつれて見慣れた蓮の瞳が見え隠れして、もしかして……と観続けていたらこれだ。
「こんなの、これっきりにしろよ?」
「……無理、かも。全然役に入り込めなくて。秋さんだと思ってやれば簡単だし」
「蓮。そんなの何やっても同じ演技だって言われて、そのうち干されるぞ?」
「……だよね」
「ちゃんと成長しろよ蓮」
「……うん。……秋さんを想像しながらでも役作りできるように頑張る」
「は? だからそうじゃなくさ」
「無理。俺は秋さんを愛してるから、役作りでも他の人を好きになるなんて無理」
「おい蓮ー」
「秋さん……」
「……んっ、……ン……」
俺の唇に深い口付けをしながら、蓮がリモコンに手を伸ばしテレビを消した。
「はぁ、……ん……っ、……れん……」
一気に甘えモードのスイッチを入れられる。
「秋さん、ベッド行こ? 今日はいっぱいキスしたい」
「……ん、明日だっけ? キスシーン」
「うん」
「いいよ。じゃあずっとキスしながら抱き合う?」
「それいいね。そうしよう」
「ふはっ。唇腫れるだろ」
冗談だったのに本気にされた。
コアラ抱きでキスをしながらベッドに移動して、そのまま唇を合わせながら服を脱ぐ。
「……んっ、……れん……」
蓮は宣言通りずっとキスをし続ける。ときどき離れる唇が寂しいと感じるくらい、ずっと唇を合わせ続けた。
いつものように身体中にキスをされ舐められるのも気持ちいいが、キスをしながらの手の愛撫に始終頭がぼうっとする。
蓮はキスをしながら器用にサイドボードからローションを取り出し、俺の後ろに塗りつけた。
ゆっくり指が入ってきて、それだけで俺の身体は喜びに震える。
「秋さん……愛してる。俺の秋さん……」
「ん……れん、俺の……ぁっれん、んん……っ」
キスシーンに嫉妬する俺を忘れさせてくれ。本当は演技でもしてほしくない。でも、そんなことは絶対言えない。だから、嫉妬するのがバカらしく思えるくらい、俺を愛してくれ。
こんなに長くキスをするのは久しぶりだ。気持ちいい。蓮の愛で身体中が満たされ、全身がとろける。
……もう……入れてほしい。もう蓮がほしくてたまらない。
「秋さん、もういい?」
「ん……きて、れん……」
嬉しい。早くきて……蓮。
「秋さん……すごいとろけてて可愛い」
「……ばか。……ン……」
深い口付けを交わしながら、蓮がゆっくりと俺の中に入ってくる。
唇を合わせながら「愛してる」と切なげにささやかれた瞬間、ビリビリと電気が走るように全身が感じた。
「はぁっ、あぁ……っ! ……ぁ……」
俺のものから白い液体がドロっとこぼれ、全身がガクガクと震える。
「え、イっちゃた……?」
「い、イっちゃ……た、はぁ……」
なんだこれ。恥ず……。
蓮がぎゅうっと強く俺を抱きしめた。
「可愛い、秋さん」
顔中にキスを落とされ、また唇をふさがれる。
「……ンッ、……ん……。う、動け……よ、れん」
「ううん。もう少し」
「い……いから。動け。今日はめちゃくちゃにして……。おかしくなるくらい……たのむ……」
あ、頼むなんて言ったら、俺が明日のキスシーンを気にしてるってバレるじゃん。バカか……。
「ん。じゃあ、動くね?」
案の定、蓮が俺を気遣うような表情でまた唇をふさぎ、ゆっくりと中をこするように動き出す。
「ん……っ、んん……っ……」
「秋……さん……」
「……ん、も……っと、おく……までっ……」
「うん、秋さん……秋さん、愛してるよ秋さん……」
「れん……愛し……てるっ、ん……っ、ン……っ……っ」
好きだよ、蓮。お前だけを愛してる。
俺も成長するから。お前のキスシーンになんか動じないくらい、ちゃんと成長するから。
だから、初回は大目に見てくれ……。
めちゃくちゃにしてとお願いしたから、俺がもう出ないってくらいにイかされて、もう身体に力が入らない。蓮に抱きついていたいのにもう限界。
蓮の背中から腕がストンと落ちた。
「秋さん、大……丈夫……?」
「ん……うん……、ぁぁ……っ、ン……」
蓮が俺の手を取ると、チュッとキスをしてから指を絡めってぎゅっとする。
初めて抱かれた日、ずっとくっついていたいという俺の気持ちに気づいてから、未だにそれを気にしてくれる優しい蓮。
蓮と夫夫になれて、俺は本当に幸せだ。
ずっとずっとそばにいて……蓮。
「秋さん、……も……イ……クッ……」
「ん……出して。……おれん中、れんでいっぱいに……して……っ……」
「……っ、あっ、く……っぅ……!」
「れん……っ、ン……」
お互い力強く抱きしめ合ってキスをした。
蓮は俺しか見ていない。俺の最高の夫だ。
だから、大丈夫。キスシーンなんてへっちゃらだ……。
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