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サトリとイノリ
「イノリ。それ、どういうつもり?」
コンビニに立ち寄ってから再び戻ってくると、待ち合わせ場所に見慣れた人影が映り込む。
しかし、傍らに見覚えの無い姿形を捉え、立ち止まってから双子の弟へと問い掛ける。
「あ、サトリ~! あっちでねえ、拾ったんだ! いいでしょ!」
すぐさま振り返ったイノリが、屈託の無い笑みを浮かべながら嬉しそうに手を振る。
傷だらけの男の側でしゃがみ込み、楽しそうに無邪気な声を上げ、まるで宝物を手に入れたとでもいわんばかりにキラキラと目を輝かせている。
近付いて見下ろせば、土埃に塗れた青年が気絶しており、衣服はところどころ無残にも破れている。
それを彼が何処からか拾ってきたらしく、どうやらこのまま持ち帰るつもりでいるらしい。
「それで? この人どうしたの? 傷だらけじゃん」
「知らな~い。俺が見つけた時からこうだったよ? あちこち怪我してて痛そうだよね」
「うん、痛そうだね。どうしたんだろうね、何かワケありかな」
「こんなところで倒れてる奴、ワケありに決まってんじゃん。リンチでもされたんじゃね?」
「そうだね。もしかしてイノリは、この人を連れて帰るつもりでいるの?」
「うん! だってこの人、家族になれそうだし。仲良くなれそうじゃん」
「そう。確かにまあ……、そんなに悪くないね」
謎めいた男の側へと屈み込み、邪魔な前髪を払ってから無防備な顔を覗き込むと、うっすらと満足げに笑みを浮かべる。
「ねえ、運ぶの手伝ってよ~。一人じゃ大変」
「ここまで一人で頑張ったんでしょう?」
「え~! それはさ~、早くサトリに見せたかったら頑張ったの! もうヘトヘト! 無理! サトリも手伝って!」
「しょうがないなあ」
よく見れば端正な顔立ちへと指を伝わせ、唇を掠めながら艶めかしく顎を撫で擦る。
どうやら深い眠りへ就いているようで、首筋から胸元へと指を遊ばせても反応が無く、哀れにも路上で好きにさせている。
するとイノリが、男の上半身を起こして背後から纏わり付き、顔を寄せながら妖しく微笑む。
「たまには夜のお散歩もいいよね。お陰でいい子が見つかっちゃった。サトリも好きでしょ?」
男の首筋に押し当てた指先をつう、と淫猥に走らせ、あどけない笑顔に昏い熱情を滲ませる。
「そうだね。イノリが好きなモノは俺も大好き。そんなこと分かってるだろ?」
気絶した男の手を取り、自らの肩へと腕を回させて、逞しい背中を確かめるように擦る。
「うん、俺達はずっと一緒。何があっても離れない。だよね?」
反対側で青年を支える弟と見つめ合い、どちらともなく近付いて唇を重ねる。
舌を触れ合わせ、粘膜を絡み付かせながら糸を引き、やがて名残惜しむように離れていく。
「この子、目ェ覚ますかなあ」
「怪我は酷いけど、見た目ほど傷は深くない。きっと眠ってるだけだよ。直に目を覚ますと思う」
「そっか! そうだよね! 早くお話してみたいなあ」
「初めは怖がって、俺達とおしゃべりしてくれないかも」
「安心させてあげればいいんだ!」
「怖いこと何も考えられなくしてあげればいいんだよ」
「それなら俺達得意だよね! 早く帰ろ!」
止めるでもなく、拒むこともなく微笑んで、衣服の物入れから携帯電話を取り出して指を滑らせる。
流石に二人で引き摺っていては目立ち、時間も掛かってしまう為、手っ取り早く運べる術へと連絡を取る。
傍らには、未だ意識を取り戻せない傷だらけの青年と、食い入るように見つめながら愉悦を浮かべる弟が映り込む。
目覚めた彼が大人しくするようには思えないので、きっと一筋縄ではいかないだろう。
だが厄介事に辟易とするよりも、彼の目を見て話す瞬間を待ち遠しくも思い、イノリの人選に狂いが無いことは誰よりも分かっている。
ひとまず今は、意識を取り戻す前に早く運んでしまおうとゆっくり立ち上がり、新しい仲間を受け入れるべく歩き出した。
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