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ある男の受難 1※
「ん……」
遠くから微かに声が聞こえて、自然と耳をそばだてる。
楽しそうに語らい、時には笑い声が響き、夢うつつを彷徨いながら会話を拾い上げていく。
時間を掛けると、より鮮明に声が聞こえるようになり、側に男が居る事に気が付く。
少しずつ光が射し込み、眉根を寄せながら目蓋を押し上げ、ぼんやりと景色を視界に収める。
「あ、起きた! 起きたよ、サトリ!」
眩さに目を細め、膜が張られたような意識の中で、聞き慣れない声を感じ取る。
徐々に輪郭を取り戻していく視界では、見覚えの無い男が興味深そうに顔を覗き込んでおり、何がそんなに可笑しいのか嬉しそうに笑っている。
「ちゃんと一人で起きられたんだ。良かったね」
「ね、ちゃんと言ったでしょ~!? 大丈夫だって!」
「イノリったら、俺の言うこと全然聞いてくれないんだもん。眠ってる人にいきなり注射打ったらダメでしょ」
「だって~! 早く遊びたかったんだもん! ちゃんと起きられたんだからいいでしょ!」
混濁した意識では、繰り広げられる会話の意図がよく分からず、そもそも何が起こっているのかが理解出来ない。
こいつらは何だ? それに此処は、何処だ……?
寝台に寝かされていると分かり、辺りを見渡せば知らない部屋が映り込み、此処に至るまでの経緯を懸命に探ろうとする。
置かれている状況は非常に悪く、おまけに身動きもとれない。
口を塞がれ、後ろ手に拘束され、両足まで囚われていて芋虫のように這いずる事しか叶わない。
その上、服を着ていないらしく、身動ぐ度に敷布が肌へと触れて言いようのない感覚が俄に沸き立っている。
「アハ、不安そうな顔してるなァ。かわいいねえ。お薬ちゃんと効いてるかなァ」
怪訝な表情を浮かべていると、一人が寝台へと上がり、嬉しそうに微笑みながら見下ろしてくる。
身の危険を感じて逃れようとするも、せいぜい敷布に皺を刻み付ける事しか出来ず、無様な醜態を眺めながら青年が満足そうに笑みを湛えている。
「急に動かないほうがいいよ~? 一気に回っちゃうと、お兄さんが辛くなっちゃうかも」
無遠慮に跨がり、舐めるように身体を見つめてから、彼が唐突に乳房を鷲掴む。
「んンッ……!」
手の平で撫で回してから、胸の尖りを摘まんでは捏ね回し、状況を呑み込めないままに野蛮な行為が繰り広げられていく。
「ん~、気持ちいい? 乳首ぷっくりしてきたね。美味しそうだから食べちゃおっと」
信じられない事を告げられたと思いきや、次の瞬間には得も言われぬ歓楽が迸り、電流が駆け抜けるように痺れていく。
こんな事は有り得ない、おかしいと思っても、現に身体は見知らぬ青年に弄ばれて猛っており、胸元を嬲られて淫らな感情がせめぎ合っている。
「ん、ンンッ……」
「感じてるんだァ、嬉しいな。ねえ、この傷。痛い?」
「ンゥ……!」
「あ、痛いかァ。よしよし、ごめんね。もう痛くしないから」
確認出来ないものの、傷口へと触れられて痛みが走り、イノリと呼ばれていた青年が幼子 をあやすように髪を撫でてくる。
そうしている間にも、一方の手では胸の尖りを弄られ、捏ねられる度に甘ったるい痺れに苛まれて困惑する。
「ねえ、サトリ。この子とってもかわいい」
「ちゃんと見えてるよ。気持ち良くなってくれて良かった」
笑いかける視線を追えば、よく似た顔の青年が映り込み、そのどちらにも見覚えがない。
動揺を隠しきれず、脱しようと試みる程に快楽へと転じ、どうしようもないくらいに暴力的な情欲が込み上げてくる。
誰だ、何だこいつらは? 俺はどうなった?
疑問だけが浮かび上がり、どれも解決出来ないままに身体を弄ばれ、殴り付けたくても拘束されていてはどうしようもない。
好きにされるなんて我慢ならないのに、すでに退路を絶たれた身体では悶えている事くらいしか出来ず、舌を噛んで死ぬことすら叶わない。
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