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Scene-5

 俺次の授業サボるわと原田に告げると、原田は付き合うわと言って屋上に付いて来た。  今日の空も快晴で、午後の日差しが柔らかくコンクリートを照らしている。 「今日沢井休みだったな、珍しいよな皆勤だったのに」  隣で地べたに座ってスマホをいじりながら原田が呟く。俺はポケットから煙草を出すと、一本口に挟んだ。 「あれ?藤原タバコ吸う人だっけ?」  今どき隠れて吸っている奴も少なくないからか、別段咎める雰囲気もなく原田が聞く。 「いや」  俺は風を避けながらライターを点ける。 「どんな味するのかなって…」 「ふーん」  原田はまたスマホに目線を落とす。誰かとチャットでもしているのか「お」という声。 「今の時間自習になったって!」 「そっか」  俺は短く答える。 「自習ってことは綾子先生も休みか。朝のホームルムも来なかったもんな…て、藤原?!」  原田が立ち上がって俺の顔を覗き込んだ。 「ど、どうした?!」  慌てた原田の声。それもそうだ、俺の目から大粒の涙が溢れている。それはコンクリートの柵にパタパタと落ちて、幾つもの染みを作った。 「ノド…痛」  俺は咳き込んだ。 「バッカ、んじゃ無理に吸うんじゃねーよ」  原田が俺の背中を撫でた。 「はは…」  俺は笑って誤魔化した。  二人の隠し事。今頃はもうバレているだろうか?  俺はもう一度だけ煙草をくわえた。原田がやめとけってという顔で俺を見る。  だって、見てみたかったんだ。沢井が見ていた風景を。  知りたかったんだ。俺の胸を疼かせた味を。  だけど。    俺にはまだ、苦いだけの  劇薬。

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