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君の歌

 空海島自体が学生に対して良くも悪くも成績を重視した島で、給付型奨学金や給付型生活支援制度など、成績によって受けられるか決まったり、成績の度合いによって金額が変動したりする制度がある。  給付型奨学金は基本的に、空海学園の特例(トップ)クラスのAクラス又はBクラスに所属している人が受けられる制度で、休んだ日数などの制約は設けられていないというそれなりに優しい仕様だ。  親などがいなくて生活が出来ないなどの学生は、給付型生活支援制度で生活の支援をしてもらえる。  渚は両親がどちらも他界していて、どちらの制度も受けているので、そのこともあって成績を一定水準は保つ必要があると本人が言っていた。 「俺がどうにかしてやれれば渚も少しは楽になるんだろうが……」  それが出来れば苦労はしない。  そんな考え事をしながら、渚のいる特例(トップ)クラスの教室に着くと、中を覗き込む。  クラスメイトは全員下校したか部活に行ったようで、渚は一人、窓際の席で外を眺めていた。  たそがれているのか、何か考え事をしているのか、俺が来たことには気づいていない様子で、何故か声がかけづらくなってその場に立ち尽くしてしまう。  そんな俺には気づかず、渚は風の音を聞くように夕陽に照らされた蒼い瞳を閉じた。  そのままゆっくり息を吸い込むと、その唇が音を紡ぎ出す。  その歌はとても優しくて。  音を紡ぐ渚は凄く楽しそうで。  その唇から織りなされる音色が、まるで風に乗って踊っているようだった。  その場所の空気が優しい音の世界に包まれる。  俺は渚の紡ぐ声が、歌が、好きだ。

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