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君とファミレスへ

 俺と渚は隣街に行くために改札を抜け、電車に乗る。  バスでもよかったのだが、電車の方が早いのでそちらで行こうという話になった。  そのまま隣街の駅で降り、行きつけのファミレスに向かう。  ガラスドアを開けると、エアコンの涼しい風が俺たちを出迎えてくれた。  その後に、元気そうな男性店員が人数を聞いてきたので二人と告げると「お好きな席へどうぞ」と明るい声で促してくれる。  俺と渚は会釈してからいつもの窓際の席に向かい合って座った。  ここに人がいない限り、この席が俺と渚の定位置だ。  渚は机の横に用意されているタブレット端末を慣れた手つきで操作すると、スイーツサービスを開き、本日のおすすめを選んでケーキ食べ放題のボタンを押した。  そのあとにドリンクの項目へ移動してから、顔を上げて俺に声をかけてきた。 「荒玖は何飲む?」 「ウーロン茶でいい」 「ん、わかった」  言われた通りにウーロン茶を頼んで注文受付ボタンを押す。  その数分後に店員が来て二枚のスイーツ券を手渡してくれた。  ……ん? あれ、なんで二枚?  もしかしてこれ、俺も食べるってことになってるのか?  甘いものは苦手なので、食べ放題の料金を払うのはもったいなく感じてしまう。 「荒玖! 早く行こ!」  渚は喜々として声をかけてくると、俺の腕を引っ張った。 「待て。なんで俺の分まで食べ放題の注文してるんだよ?」 「え?」  何を言ってるのかと言いたげな不思議そうな顔で小首をかしげる渚に、俺は盛大にため息をつくと諦めて席を立った。 「荒玖も食べるんだよな?」 「食べねーよ。渚がおいしく食べてるの見るだけで俺は満足だし」 「えー、俺の奢りだし一緒に食べようって」 「頼んじまったし食べるけど、あんま食えんぞ」  そんな俺の返答に渚は花が咲くような笑顔で「うん!」と頷いてケーキが並べられているショーウィンドウの受付まで小走りで向かった。  そんな楽しそうな後ろ姿を見つめながら、俺は薄く微笑んでからその後を追うのだった。

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