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癒やしの時間
「もふもふっ!」
「…………」
ハムスターのように頬を膨らませて幸せそうにケーキを頬張る渚を見つめつつ、俺は自分のケーキをフォークで切って口に含んだ。
「んー……っ! おいひい〜」
頬に手を当てて満悦の表情を浮かべる姿は、いつ見ても可愛い。
「お前、本当に甘いの好きな?」
「うむ、大好きだぞっ! 幸せすぎて死んでもいいくらい!」
「縁起でもないこと言うな」
渚は昔から甘いものが大好物で、よくここのファミレスに来てはスイーツを食べていることが多い。
その割には、乱暴に扱えば折れるんじゃないかというくらいに体つきが華奢だったりする。
この細い体のどこにその飲み込んだものが入ってるのだろうか。
そんな疑問が頭を埋め尽くす中、渚が手を止めて不思議そうに声をかけてきた。
「どうした? 手、止まってるぞ? 食べないのか?」
「あー……そろそろ甘いのがきつくなってきたからな……」
「えー!? こんなに美味しいのに。でもまだ残ってるぞ?」
渚は俺の食べかけのケーキに視線を落としてから、その視線をまたこちらに戻し首を傾げた。
「よかったら残りは渚にやるよ」
「ホントにっ?」
俺の言葉に渚は目を輝かせて身を乗り出してくる。
顔の距離が近くなって、俺は慌てて身を引いた。
近すぎるんだってば! 心臓が死ぬ……っ。
そう心の中で叫びながらも何とか平静を装い、身を乗り出してきたその肩を押して離れさせる。
「ホントだから、いちいち身を乗り出すな」
「えへへ、うれしくてつい……」
渚は苦笑しておとなしく席に着くと、自分のケーキに切り込みを入れてそれにフォークをさくっと突き刺す。
自分で食べるのかと思ったが、何故かそのままフォークを俺に向けてきた。
「なら一口交換!」
「?!!??!!」
俺は口をパクパクとさせて、向けられたフォークを見つめた。
目の前の光景に思考がぐるぐると混乱して言葉が出てこない。
これって、このまま食べるとどう考えても恋人がよくする「あーん」の構図になるわけで。
しかも一度渚が口をつけているから、間接キスになってしまうじゃないか。
そう考えただけで頭から煙が出そうだった。
それでも、このまま食べれば、渚と……。
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