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癒やしの時間 2

「お、れは……いいからっ! もう甘いのは無理って言ってるだろ……」  その欲しいという気持ちを必死に押し殺し、遠慮してその手をそっと押し返す。  渚は残念そうな顔をしたが、気を取り直したのかまた笑顔に戻ると、今度はとんでもないことを言い出した。 「じゃあ、その残り、荒玖が食べさせてくれよ」 「はぁっ!?」  驚きすぎて出てしまった俺の大声に、周りにいたお客さんが何事かとこちらに視線を向けてきた。  一気に集まってしまった視聴率に、はっと我に返ると、口を押さえて体を縮める。  うぅ……恥ずかしい……。 「そんなに驚くことか?」  無駄に意識しすぎて過激に反応してしまった俺に、渚は不思議そうに首を傾げた。  本当に俺のことなんてなんとも思ってないのだろうな。  天然は怖いと改めて思った。 「荒玖ー早くー」  いい加減に待ちきれないというように身を乗り出してくる渚に、俺は覚悟を決めてケーキに切り込みを入れ、フォークで刺すと、目の前で小さく開かれている口に近づけた。  渚はそのまま差し出されたケーキを口に含み、もきゅもきゅと頬張りながら顔を綻ばせる。  あぁ……やってしまった……。  無自覚な渚に間接キスをさせてしまったことに後悔が押し寄せてくる。  それでも、胸の鼓動は高鳴り、心の中で後悔しつつも嬉しい気持ちが込み上げてきて、余計に罪悪感に襲われた。 「んふー……おいひい~」  そんな俺とは対照的に、渚は幸せそうにケーキをもふもふと頬張っていた。  これだけ美味しそうに食べてくれるなら作った人も幸せだろうな、と頭の片隅で考えながら、自分のケーキをもう一回切り分けると、再度渚に差し出す。 「んぇ、ホントに俺が食べていいのか?」 「俺が食べるより渚が食べた方が、きっと店の人も喜ぶと思うぞ」 「よくわからんが、荒玖がくれるって言ってるからありがたく貰う!」  罪悪感もあったが、渚とこうしてゆっくりした二人の時間を過ごせることが嬉しくて、心の中が幸せで満たされていくのだった。

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