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君への信頼 3

風竜(アクシル)ッ!」  渚の言葉に緩やかに流れていた風が勢いよく集まり、渦を巻き上げながらアルドウルフを飲み込んだ。 「ふッ!!」  そのまま弾けるように爆発し、巻き込まれたアルドウルフを吹き飛ばす。  地面に叩きつけられた数匹が粒子になって消え、砂の煌めきだけが辺りに舞い散った。  俺はその様子を視界の端で捉えてから後ろに下がり、魔物との距離を取る。  視線だけは外さず、渚と同じように元素魔法を使うことに意識を集中させた。  頭に岩石を思い浮かべ、投げつけるイメージする。  思った通り、魔物と同じくらいの大きさをした岩が創り上げられて、俺はそれを目の前にいたアルドウルフの群れに向かって、片手を振るって飛散させた。  何匹かには避けられてしまったが、二匹ほどが粒子になって消滅していく。  それを目の端で確認しつつ、眼前に迫る一匹のアルドウルフの爪撃(そうげき)を剣の腹で受け止め、そいつの腹を目掛けて右足を振るって蹴り上げる。  魔物が体勢を崩した隙に、もう一度元素魔法を発動し、閃光の槍で灰色の体を貫いた。 「は、ぁ……ッ、……っ」  渚の方へ視線をやると四匹のアルドウルフに囲まれている状態だった。  いつもは穏やかな蒼い瞳が、鋭く細められる。  その直後に前に勢いをつけて踏み込むと、手に持っていた短剣で斬り上げ着地してから、もう一度地面を蹴って飛躍した。  まるで猫のように軽やかに宙で体を捻ると、後ろにいたアルドウルフに短剣を投げつける。  舞いを思わせる無駄のない戦い方に俺は思わず息を呑んだ。    渚はすぐさま体勢を立て直し、元素魔法で攻撃したあと、もう一本短剣を生成してから、それを残りの襲い来るアルドウルフに投げて粒子化させた。  そのまま少し遠くから自身に向かって突進してくるもう一匹を、岩の元素魔法を発動して地面から刺し貫く。  俺はそんな渚を気にしながら飛びかかってくるアルドウルフに雷撃を放った。  数歩後ろに下がり渚と背中合わせになると、唸り声をあげるアルドウルフから目をそらさず声をかけた。 「はぁ……っ、何回、使った?」 「四回……残り一回残すと考えて五回……」 「同じく……まだ十匹はいるぞ……」 「大丈夫……なんとか……、なる……」  渚の声が弱々しくなっていく。  横目でチラリとその顔を見遣れば、頬が赤く染まり、じんわりと脂汗が滲んでいた。 (そういえば……風邪、引いてたんだった……)  しかし今、この数から渚を守りつつ戦うのは無理だ。  何とか頑張ってもらうしかない。

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