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もう一匹の敵
渚が持つ短剣と同じものを生成し、群がるアルドウルフに投げつけて右手へ駆け出す。
そんな俺を四匹ほどが追いかけてきたのを確認して、右足に力を込めて急停止をかけてから、集まっていた魔物目掛けて稲妻を落とした。
「よしっ……!」
粒子化していく姿を見ながら後ろから迫ってきていたニ匹のアルドウルフに生成した短剣を投げつけて、持っていた長剣で一撃を食らわせる。
渚も元素魔法で攻撃しながら小さいにもかかわらず短剣で魔物を叩き伏せていた。
(残り……ニ匹……)
俺はそのニ匹に駆け出そうと、体を捻る。
が、何かが風を切る音が耳に届いて、肌に感じる殺気とに咄嗟に横に転がる。
その直後に鋭い何かが俺の首があった場所を横断していった。
「……つ……ぅ!」
地面に転がったことで体に擦り傷ができたが、気にする余裕はなく、攻撃してきた何かを視線で探した。
その姿を目にして、はっと息を呑む。
アルドウルフ……に見えた。
しかし、さっきまでのやつらと大きさと体格が違いすぎる。
ゆらりと伸びた尻尾はその先が刃物のように鋭利になっており、長い爪が地面を抉っていた。
アルドウルフと違い、突き刺されたらひとたまりもないような角が緩やかな曲線を描いて頭から伸びている。
がっちりとした体躯のそいつは低く喉を鳴らして、紅い瞳で俺を見つめていた。
「荒玖!」
渚がその存在に気付いて元素魔法で地面から岩の槍で貫こうとする。
しかし、そいつはその攻撃を先読みしたかのように足をバネにして宙に飛び上がり、次々に追撃してくる槍を軽々と躱して後方に着地した。
「な……っ」
避けられると思っていなかったのか、渚が驚いて目を見張る。
俺はそいつとの距離を少しずつあけながら、渚を庇うようにジリジリ後ろに下がった。
その魔物も左にゆっくり歩きこちらをじっと見据えたまま、尻尾で地面をザラザラと擦る。
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