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もう一匹の敵 2

 一瞬の間のあと、魔物が地面を蹴って突進してきた。  その行動を合図にしたのか、ニ匹いたアルドウルフも牙を剥いて飛びかかってくる。  渚が俺より先に前に飛び出し、アルドウルフの一匹を短剣で切りつけてから、もう一匹を元素魔法で粒子化させる。  俺は魔物の爪撃(そうげき)を剣で受け止めながら、その腕を押し上げて横に振り切ると、そのまま後ろに飛んで元素魔法で一撃を入れる。  その攻撃は掠めることもなく躱され、力強く地面を蹴り俺との間合いを一気に詰めてくる。   「……っ!」  何とか距離をあけようと後ろに下がった瞬間、魔物の尻尾が鞭のようにしなり、俺の体を殴りつけた。 「あぐ、ぅッ……!」  その攻撃に弾き飛ばされて地面を転がる。 「このッ!!」  渚はすぐさま俺の前に躍り出てくると、魔物に対して雷光の雨を降らせた。  流石の瞬発力を持つ魔物も、何弾が命中してガタイのいい体がフラリとよろける。 (やった……か……?)  そう思ったのも束の間、魔物の尻尾がものすごい勢いで地面を殴ってから渚に向かって。 「あ゙ぅ……ッ!?」  その衝撃で渚の体が弾き飛ばされて、近くにあった木に叩きつけられた。  俺は何とか体勢を立て直し、地面に倒れる渚の前に回り込むと、襲い掛かってくる魔物と自分の間にシールドを展開する。 (やっぱり張れる!)  その間に後ろで渚が体を庇いながらよろよろと起き上がると、もう一度魔物に向かって雷撃を放った。  まともに攻撃を食らったそいつは咆哮し地面を転がると、低く唸り声をあげる。  俺はその隙に閃光の槍で魔物の体を貫いた。  大きな体が痙攣を繰り返して、そのまま動かなくなる。 「はぁ……っ、ふ……はぁ……っ」  俺は荒い息を整えながら剣を地面に突き刺した。  頬を伝う汗を手の甲で拭って後ろを振り返る。 「はぁ……ぅ……、ぁ……っ」  渚の体がふらりと崩れ落ち、俺は倒れ込んでくる華奢な体を抱きとめるとそのまま地面に座り込んだ。 「渚……っ、大丈夫か……?」  腕の中の渚は頬が真っ赤に染まっており、血の気の引いた顔色をしていた。  そっと額に手を当てて体温を確認する。  最初に触ったときよりも熱を帯びていて、尋常じゃない汗が頬や首筋を伝い落ちていく。 「だ……いじょう……ぶ……、ふぅ……っ、は……っ」  渚は浅く呼吸を繰り返しながら、それでも何とか立ち上がろうと俺にしがみついてきた。 「と……にかく……帰ろう……」  俺はふらつく渚の姿を目で追ってから慌てて立ち上がり、声をかけようとして―― 「渚、一人で行くのは危な――……ッ、渚ッ!!」 「え……?」  魔物が起き上がって渚に飛びつこうとするのと。  それに気づいて俺が元素魔法で攻撃するのは同時だった。  紫色の稲妻が魔物を切り刻んで粒子化すると、他のアルドウルフと同じように跡形もなく消えていく。  その瞬間に俺の中から何かが完全になくなる感覚がした。  LPが、0に、なったのだ。

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