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捕食

捕まえるのにそんな策はいらない。 2人きりになればいいだけだ。 獲物は成績が伸び悩んで苦しんでいた。 助けの手を差し伸べた。 「君は優秀だよ。少し勉強のやり方を変えてみたらどうだ?」 オレは彼に言った。 真っ白な顔で、思い詰めすぎて目が虚ろになっていた彼は優秀な教師として評価が高いオレの言葉に飛びついた。 こんな思い詰めて切羽詰まっていたらいくら天才でも行き詰まる。 成績しか自分の価値を見い出せない愚か者なのが原因なのだがだからこそ、捕まえるやすい。 寮内にある自分の部屋に呼び出した。 市内に家があるが、市内から離れているので職員は半分住み込みのようになってる。 誰にも内緒だと言って彼を呼びだした。 全寮制のこの学校で、生徒と個人的に教師が関わることは許されていない。 特別扱いは許されない。 だが 「君は優秀だ。放っておけないよ」 やさしく言ったのだ。 学校一の人気教師にそう言われて、彼は必死で保とうとしている自尊心を刺激されて。 獲物はそれに応じてしまう。 いつだってそう。 そういう子を選んでるから。 そしてのこのこ放課後やってきた。 何も知らないで。 「良く来たね」 優しく言って、紅茶を入れてやる。 紅茶は大事だ。 これは自家製の紅茶だから。 何も知らないで喜んで獲物は紅茶を飲む。 そして、まずは話を聞いてやる。 成績が何故伸びないのかを考えてやる。 「テスト対策は大事だが、そこが問題だな。もう少し深くを知るべきだ。テストに出ない範囲まで」 根本的な問題だ。 テスト対策ばかりしてるから成績が頭打ちになる。 学問というのはそういうモノだ。 「でも成績が・・・」 親のために成績をとるしかない哀れな獲物は食い下がる。 「今回のテストは悪くていい。親御さんに私から言おう。1年後、君は10番以内になる」 私は保証した。 親の説得は難しくない。 私のことは有名だからだ。 子供が素晴らしい大学に入学できて、優秀な成績で卒業できると言えば何もいわない。 なんならあなたの子供を私が犯せば優秀になる、と言ってそれを信じたなら喜んで私に子供を犯させても不思議じゃないくらいの連中だ。 優秀な子供というアクセサリーが大切なのだから。 大体こういう子供は親が追い詰めなければ勝手に優秀な成績をとるものなのだ。 親のプレッシャーさえ取り除けば、元々10番以内だったのだから勝手に元にもどる。 この子に必要だったのは親をシャットアウトすることだけだった。 だがそれは言わない。 親から今期は成績について何も言われないとわかっただけで、彼の顔色が戻ってきた。 どれほど追い詰められていたのか。 哀れで惨めで、可愛い。 ホッとしすぎて、椅子から崩れおちそうになる。 それを、立ち上がって支えてやる。 肩を抱き、優しく声をかける。 「大丈夫か?」 いたわりの言葉。 優しい声で。 「大丈夫、です」 でも、張り詰めていた精神の糸が切れているのはわかる。 知ってる。 屋上で柵にしがみつき下を見ていたのも。 今回のテストでダメなら死ぬつもりだったんだろ? くだらない。 たかがテストで。 でも、だから都合がいい。 「今回のテストは悪くていい。だから気を楽にするんだ。来期も気にするな。来年頑張ればいい」 そう言った。 彼の身体の力が抜けて、壊れたように泣き出した。 限界まで追い詰められていたのだ。 慰めるようにして抱きしめた。 やはり、首筋が綺麗だ。 これは楽しめるだろう。 彼は私の腕の中で身を任せていた。 「辛かったんだね」 優しく言って背中を撫でる。 彼は静かに涙を流していた。 緊張の糸が切れて、惚けたまま。 だが。 彼の身体に異変がおこる。 それは予定通りだった。

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