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第6話 ※R-18 身勝手な言い訳

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□  卒業式でシアンを見たときは、本当に誇らしくてこんなに可愛くて優秀な子が俺の嫁になるんだって思うと、早く功績を残して出世したくて仕方なかった。  ソリチュアは家同士の繋がりもあるし、何より子供が産める女だから、そこは別物だけど、シアンはやっぱり可愛くて誰にもやりたくなかった。  来週の終わりには出征が決まっていたけど、まだ言えずにいた。  だから、今日、絶対にシアンを抱いて約束をするんだって、下心たっぷりに迎えに来た。  大分奮発した高級な店の個室、しかも上階には部屋もある。  こんなシチュエーションならどんなにお堅い女も男も、絶対に落ちると同期のヤーノは言っていた。 「ベオク、一緒に泊ってもらえないか?」  まさか、シアンから言い出してくれるとは思ってもいなかった。  そこからは、当たり前の様にシアンの体を開き、その最深部へ俺の欲望を叩き込んだ。  女とは違ううねりや、縁はキツく締め付けているのに、中は柔らかくグニュグニュと包み込まれ、夢中になって腰を叩きつけた。 「ぁああぁあ、んんっ!」  シアンからもっとと強請られ、三日間を獣が交わる様に、食べては体を貪り爛れたシアンの穴を、更にめくり上げるように出し入れを繰り返した。 「愛してる、ベオクが迎えに来てくれるのを待ってるからね」 「ああ、シアンを必ず迎えに行く」  別れの朝その場の雰囲気で約束を交わしたけど、出征の事もソリチュアとあの後直ぐに婚姻を結んだ事も知らせず、ただ出征する事だけを記した手紙を出した。  そしてひと月が過ぎる頃、シアンへの近況の手紙を出した後、ソリチュアからの通信で妊娠を知らされた。 「ベオク様、お帰りになる頃には、可愛い我が子に会えますから。  無事にお帰りになって下さいね」 「ああ、ソリチュア。  体を大事にしてくれ。  父と母は優しくしてくれているか?」 「はい、初孫ですし、街一番の豪商とロンダン家との子ですもの。  将来は領主になる子、大事にして下さっています」  鈴の鳴るような笑い声を含ませながら、幸せな報告を聞くと、領主と言う言葉を使われた以上、シアンを第二夫人にする事さえ難しいと思って、約束の責任を逃れる様に一言だけの手紙を出した。  シアンが魔力通信が使えなくて良かったと、心からそう思った。 ------------------------------------------------------------  帝都経理部に配属されてひと月が過ぎた頃には、仕事のやり方を大体把握した。  前世は三十超えのサラリーマンだから、報連相が大事って分かってたし、組織とはこんなものだ、と理解できた。 「おーい、シアン、この計算どうやるの?」  歩く電卓の様な扱いもあるけど。  概ね、良好だった。 「シアン君、優秀だね。  この部分の表ってやつは見やすいし」  グラフなんかにして増減を分かりやすくしたり、ここは前世の知識をフル活用して、予算案を作ったりした。  これからの自分の人生が明るく見えた。  ベオクが迎えに来てくれると信じていたから。     ヘトヘトになる日が増えた。  と言うかどうにも体が重い、と思う事が増えた。  そんな時、帝都経理部内にある宿舎の僕宛にベオクからの手紙が届いた。 『シアンへ    元気にしてるか?  順調に仕事をしてるお前が目に浮かぶよ。  俺は偶々上官の命を救う形になって、一気に功績を上げられた。  訓練の成果が出たとも言える』  短いけど、ベオクらしい内容だった。  上官の命を救ったとあったし、出世するのも早いんじゃないかって嬉しくなってすぐに返事を書いた。  体の心配やら、頑張ってる事への喜びに加えて、ただ待ってると。  その手紙だけで、体の不調も随分楽になったような気がした。  それでも翌日も起きると怠くて、胃のムカムカがあり朝食は抜き仕事場に向かう途中で、急ぎの手紙を配達員から受け取った。  差出人を見るとベオクからで何かあったのかと気になってその場で開封して読むと、たった一言『約束は守れないから無かったことにして欲しい』とだけ書かれていた。  理解出来なかった。  帝都経理部の配属を聞いた時みたいな驚きではなく、足元が崩れ落ちて奈落の底に落下するような、そんな浮遊感にも似た眩暈が襲った。 「うそ、だろ」  ひゅっとの喉の奥が詰まるような感じがして、息が出来なくなりそうだった。  過呼吸だと気づいたのは、その場に倒れ込む様に膝をついた時だった。  呼吸が苦しくて無意識に過剰に酸素を取り入れてた結果、バランスが崩れて過呼吸になっていた。  袖を口に当て、酸素量を調節するように呼吸すると、息苦しさが段々マシになって来た。 「あはは、聞かなかった僕が悪いんだ……、あの時うやむやにしてしまった僕が……」  送り付けられてきた指環が藍色だった事も、あの手紙の事も全て別れを切り出されるのが怖くて目をつぶってたんだ。  茫然自失と言う言葉を身をもって体験した。    出勤前の通路でいつ迄もへたり込むわけにもいかないと自分を奮い立たせて、持っていた手紙をポケットに押し込むと遅れ気味な時間を気にして走り出した。  一日をどうにかやり過ごしたけど、惨憺たる状況だった。  計算ミスを繰り返してしまい、さすがに上司に呼ばれ心配されるほど顔色は悪く、休みを取って病院へ行くように厳命された。 「お医者さまでも草津の湯でもってやつなんだけどな」  もう笑うしかなかった。  それが分かっていても、上司の厳命に従うしかないので明日は病院へ行く事にした。

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