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根岸さんと伊澤さん
ヤスさんは鼻唄を口ずさみ、すごぶる機嫌がいい。
「旦那抜きで四季とデートが出来るんだ。これほど嬉しいことはないだろう」
ヤスさんが後部座席のドアを開けてくれた。
「一人でも乗れます」
「遠慮するな」
「あ、でも……」
「大事な娘と孫を落とす訳ないだろう。ほら、しっかり掴まれ」
首根っこにしがみつくと、ふわりと体が宙に浮いた。そのときポケットからおにぎりみたく丸まったハンカチが落ちた。
「ヤスさん、それは、その……」
どう説明しようかと迷っている間に後部座席に座らせてもらい、ハンカチを拾ってもらった。
ヤスさんは勘が鋭い。
思ったことがすぐに顔に出るから嘘はつけない。それならと正直に言うことにした。
「なるほどね。じゃあこれは預かっておくよ」
車椅子をトランクルームに入れ、隣に乗り込んできたヤスさんに事情を説明した。
「妊娠すると味覚が変わるみたいなんです。だから気のせいかも知れないけど……」
櫂さんを疑うなんてどうにかしてる。
「四季は母性本能が強い。だから無意識に胎児を守ろうとしたんじゃないか?」
ヤスさんが気にすんな、と頭をぽんぽんと撫でてくれた。
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