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妙な胸騒ぎ

おはよう。ヤスさんが若い衆を二人連れて姿を現したから腰を抜かすくらい驚いた。 「ヤスさんにここにいることを連絡した?」 「ううん。髪が跳ねてそれどころじゃなかったもの」 「俺は四季専属の弾よけ兼親代わりだ。娘がどこにいるかくらいだいたい分かる。櫂さん、今が旬の梨だ。結さんに渡してくれ」 ヤスさんがカウンターの上にレジ袋を置いた。 「三十年前といったら根岸さんがカタギからヤクザになり、伊澤さんに出会った年だ。通り魔事件でふたりの距離はぐっと縮まった」 「根岸さんと伊澤さんって?」 「うちの組の熟年新婚夫婦だ。東京に戻る前に四季に会いたいって言ってる。無理にとは言わないが、もし会いたいならこれから組事務所に連れていくぞ。どうする?」 「急に聞かれても……」 ちらっと様子を伺うように彼を見上げると、 「行ってきたらいい。俺は雄士さんに会って詳しい話を聞いてくるよ」 「よし、決まったな。四季、行くぞ」 「え?もう行くんですか?」 「善は急げだ。朝宮さん、四季を借りていくぞ」 ヤスさんが車椅子を押してくれてそのままドアに向かった。

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