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青空さんとの出会い
「制服がない高校で、髪を染めたり華美な服装で登校しなければガミガミとうるさく注意はしなかった。ちゃんとした理由があり学校に届け出ればバイトも認めていた。私が受け持ったこのクラスの生徒は複雑な家庭環境で育った生徒が多くて、遅刻早退無断欠席は当たり前。補導され親の代わりに迎えに行ったこともある。このまま甘やかしたら生徒がダメになると思い、あえて心を鬼にして厳しく接した。それが良かったのか悪かったのか、今となっては良く分からない」
結お姉さんは眼鏡を掛けて、長い髪をおだんご風にひとつに纏めていた。
「ねぇ和真さん、櫂さんいないよ」
「そんなはずないだろう」
目を皿のようにして生徒一人一人の顔を確認したけど、何度見ても櫂さんはいなかった。
「櫂くんは卒業式の途中で突然いなくなった。あとで訳を聞くと身内に不幸があったからと話してくれた」
彼のスマホがぶるぶると振動した。
「橘さんからだ。花さんすみません」
軽く頭を下げると耳にスマホをあてながらドアに向かった。
「四季くん、櫂くんを信じたい気持ちは分かるが、決してそれに惑わされてはいけない」
「花さん、どういう意味ですか?」
「千世、そろそろ帰るぞ」
「あなただけ先に帰ってください。和真さんに送ってもらいますから。うちの人、三分と待てない人なのよ。たまにはゆっくり教え子の話しを聞かせてあげればいいのにね」
千世さんが青空さんの鼻についたクリームをハンカチで拭いた。
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