78 / 431

亀裂

「結お姉さん、少しは食べないと」 「うん。分かってはいるんだけどね。ごめん、何も食べたくないんだ」 結お姉さんは布団を頭から被ってしまった。 「テーブルの上にお握りを置いておくね。食べたくなったら食べてね」 膝の上にトレイを乗せ落とさないように慎重に運んだ。 紬ちゃんは円花の隣で、ふたりしてお手手をバンザイしてすやすやとねんねしている。 心春は彼の膝の上にごろんと横になり、口を大きく開けて仕上げみがきをしてもらっている。 家宅捜索は今も続いているみたいだった。 段ボールを次から次にワゴン車に運んでいる。マトリもソタイもいる。大麻らしきブツが見付かったのだろう。捜査員が色めき立っている。彼のスマホにヤスさんから逐一連絡が入っていた。 本物の櫂さんの行方はようとして分からないまま、ただ時間だけが過ぎていった。

ともだちにシェアしよう!