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亀裂
「結お姉さん、少しは食べないと」
「うん。分かってはいるんだけどね。ごめん、何も食べたくないんだ」
結お姉さんは布団を頭から被ってしまった。
「テーブルの上にお握りを置いておくね。食べたくなったら食べてね」
膝の上にトレイを乗せ落とさないように慎重に運んだ。
紬ちゃんは円花の隣で、ふたりしてお手手をバンザイしてすやすやとねんねしている。
心春は彼の膝の上にごろんと横になり、口を大きく開けて仕上げみがきをしてもらっている。
家宅捜索は今も続いているみたいだった。
段ボールを次から次にワゴン車に運んでいる。マトリもソタイもいる。大麻らしきブツが見付かったのだろう。捜査員が色めき立っている。彼のスマホにヤスさんから逐一連絡が入っていた。
本物の櫂さんの行方はようとして分からないまま、ただ時間だけが過ぎていった。
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