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亀裂
「困ったことに上澤先生は四季が俺の妻だと勘違いしている。妻子がいるならいるって一言くらい言ってくれーー違うと何度言っても信じてもらえない」
ほとほと困った表情でため息をついた。
「結さんいる?」
ドアの向こう側から慌てた様子の紗智さんの声が聞こえてきた。
「ヤスさん、頼むから結さんに会わせて。緊急事態なんだ」
「結は度会さんの家だ」
ヤスさんがドアを開けると、紗智さんが息を切らしながら部屋に入ってきた。
「だって具合が悪いから行かないって」
「結が具合が悪いのはいつものことだろう。病は気からってよくいうだろう。和真が無理矢理外に連れ出したんだ。紗智、一体何があった?」
「思い出したんだ。顔を見てなんで思い出せなかったんだろう。顔が変わっていたから?顔の印象が柔らかくなっていたから?違うな。昔の面影が全然ないからまったく気付かなかった。地竜に言われてやっと気付いた」
「なにをさっきからぶつぶつ言ってんだ。全く話しが見えないだが」
「俺も那和も李から聞いた。二十三年くらい前、路上で暮らす十歳くらいの男の子を拾って真沙哉と三人で日本を出て、青蛇を立ち上げたって。男の子は社会と大人たちを憎んでいた。李は帰国するたび成長した男の子と頻繁に会っていた。地竜はマーが送った彼の写真を見てすぐに気付いた」
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