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亀裂
「機嫌が良くて食欲もあるなら大丈夫だ」
上澤先生の診察はあっという間に終わった。円花は聴診器を胸にあてられても、お腹をあちこち触られても全く起きなかった。
「服の着せすぎや、室温のあげすぎでも、赤ん坊は体温をあげるから気を付けるように。しかしまぁ、若いのにたいしたもんだ」
「え?何がですか?」
「子どもが発熱すると、普通はたまげるもんだ。生まれはじめて38度の熱を出せば、新米ママはたいがい気が動転してしまい、どうしていいか分からなくて右往左往する。それがおめさんはどっしりと落ち着いているから、だからたいしたもんだって言ったんだ」
「実は僕、児童養護施設で育ったんです。だから小学生のころから赤ちゃんのお世話や小さい子の面倒をみてきたので」
「そうか、だからか。ヤス、あとでいいから診療所に保険証と医療費受給者証を持って来てくれ」
「分かりました。上澤先生もう帰るんですか?」
「弓削と蜂谷と茶を飲む約束をしているんだ。帰りに寄る」
上澤先生は白衣を着たまま慌ただしく隣に向かった。
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