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慶悟先輩がずっと隠してきたこと
バリバリバリと音を立てて園舎が取り壊されていく様子を僕たちは離れた場所からただ見守ることしか出来なかった。
楽しい思い出よりも辛い思い出のほうが多かったような気がする。みんなのお母さんだったまなみ先生。園舎をバックに撮影した集合写真を胸に抱き締めた先輩たちが涙を流しながらじっと見つめていた。
「四季、聞きたいことってなんだ?」
たもくんが走ってきた。
「慶悟先輩は?」
「五分だけなら四季と喋ってもいいって。ちゃんと許可はもらってきた」
「えっと、その………」
順を追って説明したほうが分かりやすいと思うんだけど時間を指定されると逆に焦ってしまい頭のなかが一瞬真っ白になってしまった。
「僕たち九年前にきよちゃんに会ってるの。覚えてる?すらりと背が高くて、小顔で目がクリクリしててすごく可愛くて、小学生とは思えないくらい大人びてて………」
「四季、そこでストップだ。キヨと別れた今だから言えることだけど四季のほうがキヨより何倍も可愛いかったよ。俺、四季のことしか頭になかったから全然覚えていない。男子は騒いでいたけどそういうのに興味なかったし」
「岩水、自分から火に油を注いでどうすんだ」
「男の焼きもちほど小めんどくさいものはないぞ」
「ほんとうのことです」
彼や蜂谷さんに何を言われてもたもくんは毅然としていた。
「だから俺は四季を守るため、放火魔の濡れ衣を着せられた四季を施設から連れ出した。結局連れ戻されたけど………」
ちらっと慶悟先輩のほうを見るたもくん。
「四季は覚えていないと思うけど、慶悟先輩は今も昔も………」
「保、余計なことは言わんで言い」
慶悟先輩は地獄耳だ。苛立った声が飛んできた。
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