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11 スターへの階段(1)

楽屋で休憩していたダイチの元に、番組の女性スタッフが入ってきた。 ダイチにペットボトルを差し出す。 「お疲れ様! お飲みものどうぞ!」 「ありがとう!」 「今日のステージ、とっても良かったです!」 「本当ですか!?」 「ええ、私何て、胸がキュンキュンしっぱなしで!」 「そうですか! 嬉しいです!」 ハイテンションなスタッフが、ではまた、と言い残し去っていくのと入れ違いでヒビキが部屋に入って来た。 ダイチの横に腰掛ける。 「ダイチ、お疲れ様」 「……」 「調子はいいみたいだな」 「まぁ……」 「楽しくないか?」 「別に……楽しいですよ」 「そっか……それならいいが……じゃあ、また後で」 「はい……」 ダイチは、去っていくヒビキを見送った。 「はぁ……すっかりアイドルになっちまったな、俺」 ダイチは、大きなため息をついた。 鏡に映る自分を見つめる。 派手なステージ衣装に身を包み、カメラ映えのするメイクとヘアアレンジを施された自分。 もはや、古着を漁りあれこれ工夫して着こなしをしていた自分はここにはいない。 「ははは、今じゃ、期待の新人アイドル。すっかり売れっ子、新人賞間違いないってか! カイト。どうだ? 俺を手放して悔しいだろ! あははは!」 大笑い。 しかし、すぐにしぼむ。 はぁ、虚しいな……。 カイトと誓った夢。 それはロックフェスのメインステージ。 今の自分は逆に遠ざかっている。 それをダイチは自覚していた。 いやいや、あいつは俺を見捨てたんだ! でも……くそっ! やっぱり割り切れねぇよ……。 カイト、お前は、今何をしているんだ? 俺、このままだと、元に戻れなくなっちまう……お前はそれでいいのか? ダイチはテーブルの上に突っ伏した。 気分転換の為に、タブレット端末のミュージックボックスを開いた。 とある曲が耳に入る。 「……それにしても、よくかかるな……この曲。『オレを天国に連れてって』か。へぇ、ヒカルってのが歌っているのか。俺とはだいぶジャンルは違うが、いい曲だな……」 リズム、メロディー、歌詞、すべてにおいて新鮮で、ダイチの耳に心地よく入って来る。 ダイチは、興味が湧き、曲の詳細を調べてみた。 そこで、よく知った名前に目にする。 「な……作曲、カイト!? 嘘だろ! マジかよ!?」 しかしながら、よくよく聞いて見れば、カイト独特の旋律や詞の言い回しが、ところどころで見て取れる。 それなのに楽曲の完成度は以前とは比べようもない程洗練されているのだ。 「あの野郎! いい曲作るようになったじゃねぇか! ふふふ、あははは!」 ダイチは何故か嬉しくなって大笑いした。 **** 普段の送り迎えの車で、昔馴染みの場所まで乗り付けた。 車を降り、ダイチは大きく息を吸った。 「久しぶりだな……変わらねぇ。懐かしい空気」 俺はどんな顔してカイトに会えばいいかな? まずは、 「どうだ? 俺を捨てて後悔してんだろ!」 で、口惜し顔を見た後は、 「お前の曲聞いたぜ! 中々いいじゃないか。俺にも早く書けよ!」 で、大喜びさせてやるかな。 ふふふ。どんな顔をすっか楽しみだぜ。 別にいつでも会おうと思えば会えた。 しかし、互いに成長し、それを認め合える今だからこそ、絶好のタイミングなのだと、ダイチは思っていた。 「それにしても、この曲、どうやって作ったんだろう。へへへ、あいつも成長してるって事だ。今日仲直りして、久しぶりにセックスしちゃったりしてな! あははは!」 ダイチの向かう先に、カイトのバイト先であるスタジオが見えてきた。 スタジオ前の橋を渡る。 「……カイト……」 店先を掃除するカイトの姿が目に入った。 それはかつてダイチが迎えに来ると、カイトがそうしていたのと同じ姿。 あの頃と何も変わってない。 懐かしさのあまり、涙が出てくる。 駆け出すダイチ。 「おーい、カイト……」 しかし、途中で足をピタリと止めた。 他に知らない男が目に映ったからだ。 その男は馴れ馴れしく、カイトの腕をとる。 「ん、誰だあれは? しらない顔だ」 怪訝そうに眉をひそめた。 「なぁ、カイト! また一緒にライブ出てくれよ」 「はぁ? 何でだよ!」 ヒカルは、カイトにまとわりつきながら話しかける。 カイトは仕事中なのだが、それはいつもの事で、カイトとしてもすっかり慣れっこ。 手を休めることなく、ぞんざいな態度で相手をする。 しかし、ヒカルは全く気にする事なく絡んでいく。 「何もクソもあるかよ! あの曲はオレとお前の合作だろ?」 「あれはお前の曲だ。俺はもう関係ない」 「お前、冷たいぞ」 「冷たいもクソもあるかよ。そういう契約だ」 「あんなにオレの体をもてあそんでおいてよ!」 「な、人聞きの悪い……お前が勝手に襲ってくるんだろ? 早く彼氏作れよ」 「バーカ! お前がオレの彼氏だっつーの!」 「はぁ? 俺がいつお前の彼氏になった?」 「今からだ!」 「バカ! キスしてくるな……」 ヒカルは、強引にカイトに抱き付き、体をからめ唇を奪おうとする。 カイトは、ヒカルをやっとの事で引きはがし、思いっきりギロリと睨んだ。 ヒカルは全くめげない。 ヒカルは知っているのだ。 自分は、本当にカイトの眼中にない。という事を。 一方で、カイトという男は、そんな自分の事を無下に断れない、そんな優しい男だとも知っている。 その優しさに付け込むようなものだが、どうしてもカイトを振り向かせたい。 そして、恋人同士になりたい。 だから、卑怯だと思われても、しつこいと思われてもいっこうに構わない。 ヒカルは、体を離す振りをして、すっとカイトの股間に手をやった。 「……さて、フェラしてやるか。どうせ溜まっているんだろ?」 「だからやめろって!」 「あらら? もう勃起してるんだけど! ふふふ、相変わらずむっつりだな、お前は! 素直になれよ!」 「てめぇ! やめろ! お前がいやらしく触るからだろ!!」 「あははは!」 ヒカルの手は、カイトのペニスをしっかり握り締め、絶対にこの手を離すものか、という強い意志が現れていた。 そんなカイトとヒカルのイチャイチャを見ていたダイチは、気が動転していた。 な、なんだ……これは。あのヒカルってやつと付き合っているって事か……嘘だろ? 俺を差し置いて? いいや、そんな事はない……カイトは、俺だけに優しい。俺に夢中なんだ。 何ていったって、あいつ俺に優しくするのが大好きだからよ! 自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着かせようとするダイチ。 しかし、更に二人のエスカレートする行為を目の当たりにする事になる。 スタジオ裏手の路地に入った二人は、フェラチオを始め、そしてヒカルはズボンとパンツをするっと脱いだのだ。 「さぁ、挿れてこいよ!」 「……ったく、いつの間にパンツ脱いでるんだよ」 「いいから! 早く!」 「こんなところでするのか?」 「大丈夫だって……何だ? ビビッてんのか? カイト」 「はぁ、お前ってやつは、本当に仕方がないやつだな……」 「……うっ、挿ってくるっ……すげぇ、でけぇのきたっ! やべぇ、気持ちよくて、涎が垂れる……かはっ」 男同士の荒々しいセックスが始まった。 ダイチは、もう見ていられず目を覆った。 カイトは俺に夢中……俺に夢中……俺に夢中なんだ。 なのに、なんで俺以外の男とやってんだ? ……まるで恋人同士じゃねぇか……まるで……。 その時、追い討ちを掛けるように、絶頂を迎えた男の悲鳴が聞こえた。 「カイト、愛してるっ……いくーーっ!」 「ば、バカ……大声出すな!」 ……なんなんだ……これ。 そこは俺の居場所じゃねぇのかよ……カイト……。 ダイチは、ふらふらとその場から離れた。

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