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14 揺れる想い、そして…

高級ホテルの一室。 髪の毛に白いものが混じった紳士がバスルームから出て来た。 大柄のたくましい肉体に、タオル一枚を腰に巻いた姿。 ヒカルは、ベッドの上に寝そべりイキの余韻に浸っていたが、紳士が横に座るとその下半身に絡みついた。 さっきまで自分を気持ちよくさせてくれたペニスにお礼と言わんばかりに口で愛撫を始める。 紳士は、ヒカルの頭を優しく撫でた。 「ヒカル君、どうだろう? そろそろ私の元に来てくれないか? 一緒に暮らせば、もっとヒカル君の事を知る事が出来る。もっと君を幸せに出来ると思うんだ。だから……」 ヒカルは、紳士のペニスから口を離した。 そして、とろんとした視線を紳士に送る。 「……もう少しだけ……もう少しだけ待ってくれよ……」 「分かった。いいよ。待とう」 ヒカルは、あごを上げてキスを所望する。 紳士の唇が迎えに行き、チュッと小さく音が鳴った。 いつの間にか紳士の男根はムキムキとそそり立っていた。 「もう一回、しようか? ヒカル君」 「うん、プロデューサー、じゃない……ご主人様」 「ふふふ、いいよ、無理しないで。プロデューサーのままでも」 「いや、一度決めた事だ。オレはちゃんとするぜ。ご主人様!」 「そっか、分かったよ、ヒカル君。さぁ、おいで。また、快楽の園に連れて行ってあげよう」 「ああ、分かった……ご主人様……」 ヒカルは、紳士の膝の上に跨いで乗っかった。 そして、紳士の股間にある固く熱いものを握りしめ、自分のお尻の穴へと誘うのだった。 **** ヒカルは、カイトのバイト先へ向かう道のりで、深いため息をついた。 はぁ……いつまでもプロデューサーを待たせるわけにはいかない。 だって、あんなにオレの事愛してくれる人他にいるか? いないよな。 でも、オレは、やっぱりカイトの事が……。 ヒカルは、揺れる気持ちを抱えていた。 スタジオの中を覗いてもカイトの姿は見えない。 おっかしいな、と思い裏手に回ってみると、カイトはしゃがんでジュースを飲んでいた。 「おい、カイト! ここにいたのか? 仕事サボっていいのか?」 「休憩だって……で、何か用か? ヒカル」 「何か用か、じゃねぇよ。今日、ライブに一緒に行く約束だろ!」 「そうだっけ?」 「忘れるんじゃねぇよ! バカカイトめ!」 バイトの時間が終わり、二人はライブ会場へと向かった。 今日のアーチストは、かつてカイトもヘルプで参加した事があるインディーズ上がりのロックバンド。 デビューお祝いも兼ねて遊びに来たのだが、あまりの人気っぷりに舌を巻いた。 人が多すぎて身動きが取れず、やっとの事で後列に場所を確保した。 カイトは、隣のヒカルに耳打ちをした。 「なぁ、ヒカル」 「ん?」 「なんで、腕を組む必要あるんだ?」 「別にいいだろ?」 「まぁ、いいけど……お前さ、アイドルのプロダクションに入ったんだろ?」 「ああ、そうだけど」 「こんな所さ、写真に抑えられたりしたらまずくないか?」 「オレに気を使わなくていいぜ。それより、お前は、オレと腕組みたくないのかよ!」 「別に……ん? 何を怒ってる?」 「怒っちゃいねぇよ。ただよ……」 「ただ?」 「何でもねぇよ! アホ!」 ヒカルは、いーっというブサカワの表情でカイトを睨んだ。 演奏が始まった。 初っぱなからノリノリのヒット曲を連発。神選曲。 観客は大喜びでテンションはぶっ飛び気味。 「うぉー! 最高!」 「かっけぇー! ブラボー!」 カイトとヒカルも、興奮して声援を送る。 ヒカルは、大音響の中、カイトの耳元で怒鳴った。 「楽しいな、カイト!」 「ああ、最高だぜ!」 「なぁ、カイト……オレ達このままずっと一緒にいられたら、いいよな?」 「え? 何だって?」 「大好き! カイト! オレ、お前の事……ずっとずっと愛してる!」 「ん? だから聞こえねぇって!」 「あははは! 何でもねぇよ!」 「……何でもねぇ? そっか、ならいいけど……」 少しスッキリした表情のヒカルは、ほくそ笑んだ。 さて、残すところ数曲になったところで、サプライズゲスト、のMCが入った。 ステージに現れたのは、なんとカイトがよく知った人物だった。 「今をときめくアイドル! そして俺たち地元の星! ダイチだ!」 「みんな、今日はよろしく! ありがとう!」 本物のダイチが、スポットライトを浴びながらステージ中央にやってきた。 会場の興奮は、最高潮に達した。 「本物か? すげぇ!」 「マジか!! 嘘だろ!!」 「きゃー! ダイチくーん!」 大騒ぎの中、ヒカルも思わぬサプライズに目を輝かせてダイチを見つめた。 「へぇ、ダイチだってさ。地元だったんだな。カイトも知っているだろ? ダイチはさ、最近のアイドル界隈じゃ有名人でさ……オレの目標でもあるんだ」 カイトは、見まごうことなきダイチの姿に戦慄した。 顔を蒼白にしてステージの上を凝視する。 ダイチは、そのロックバンドの代表曲を一緒に歌い始めた。 ダイチが歌うだけで、曲が明らかに華やかになり、舞台が映える。 ヒカルは、感嘆の声を上げる。 「うわっ、すげぇな……ダイチの歌唱力ハンパねぇな……どうした? カイト」 「わりぃ……俺、ちと外に出てくるは」 カイトは、額に手を当てながらゆっくりと出口へ向かった。 カイトは、ラウンジのベンチに座った。 まさか、ダイチが現れるとは思っても見なかった。 しかも、なんの心の準備もなく、ダイチの生歌を聴いてしまったのだ。 カイトは、強烈なボディーブローを食らったようなダメージを受け、気分はどん底に突き落とされた。 カイトの横にヒカルが腰掛けた。 「何だよ? 気分悪いのか? カイト」 「悪かったな……ヒカル。ちょっとな」 カイトは、目を閉じたまま言った。 「いいや……なぁ、もしかして、ダイチとは知り合いか?」 「なんでそう思う?」 「前に、ダイチの記事を読んで物思いにふけっていただろ? だから……」 「そうだな……」 カイトは遠くの方を見つめる。 「お前には正直に話すよ。ヒカル」 カイトはダイチの話を話し始めた。 高校で、ダイチと出会いバンドを組んだ事。 卒業後も音楽活動を続けて、共に夢の実現を目指して頑張った事。 そして、ダイチはスカウトされ、自分の元を去って行った事。 「喧嘩別れしたつもりはねぇんだが……あいつはそうは思っていないかもな……」 「……」 ヒカルは、黙ってカイトの言葉を聞いている。 「俺は、自分が成長して、あいつをスターダムに導けるようになれば、迎えに行くつもりだった。しかし、現実はどうだ? あいつはあんなに先にいっちまった……俺は何も成長できていねぇのに……」 カイトは、悔しさで唇を噛み締める。 「それに俺はあいつの成長を喜ぶべきなのに、口惜しくて仕方ない。素直に喜べない自分にも腹が立つ。そして、こんなウジウジしている惨めな自分にも……」 カイトは、突然叫んだ。 「うぉーーー! 俺が出来なかった事を誰かがやったんだ。俺じゃない誰かが! くそっ……」 ガックリ肩を落とし、うつむくカイト。 ヒカルは、その肩に優しく手を置いた。 「泣いているのか?」 「泣いちゃいねぇよ……」 「いいぜ。泣いて。オレの前なら平気だろ? 胸貸すぜ」 カイトは、よほど辛かったのか、素直にヒカルの胸に顔を埋めた。 「……うっううっ。くそっ、くそっ!」 しばらくの間、二人はそのままでいた。 「なぁ、ちょっといいか?」 ヒカルはカイトの両肩を掴み、ゆっくりと体を離した。 「カイトはオレをここまで成長させてくれただろ? お前に曲を書いてもらわなかったら、まだ、バンドメンバーと揉めながら歌いたくもない歌を歌ってたと思うよ。だから、感謝している……これって、お前の力だろ?」 「俺の力……」 「ああ、そうだ。だから、自信を持てよ。お前ならさ、ダイチに見合うだけの男になれるって……」 ヒカルは、ウインクして見せた。 カイトの口元が少し緩む。 「ありがとう……ヒカル。なんか、元気でたよ」 「よかった……本当によかったぜ!」 「ヒカル、お前っていい奴だったんだな」 「お前な! 今更かよ! あははは。まぁ、いいけど」 「あははは」 二人共、声を出して笑った。 カイトの表情にはもう暗さは無い。 ヒカルはそれが本当に嬉しかった。 「なぁ、カイト。オレは、ここで帰るよ」 「ん? 送っていくぜ」 「いいよ……カイト! 頑張れよ!」 「ああ、お前もな! ヒカル!」 「ああ、ちょっと待て!」 「ん? 何だ?」 「き、キスしてくれないか? 嫌ならいいんだが……!?」 唇が重なった。 カイトは、何も躊躇はなかった。 「今日の礼だ……ありがとう!」 カイトのハニカム笑顔がヒカルの脳裏に刻まれた。 **** ヒカルは、がむしゃらに走っていた。 涙で目がくもる。 「ちくしょう! あんな優しい男がいるかよ! ちくしょう、ちくしょう!」 「オレは、ダイチの事が羨ましくて仕方ねぇよ。あんなに大事に思ってもらえて……大好きなカイトに」 「諦めたくなくても諦めるしかねぇじゃねぇか……オレの居場所は最初からここには無かったってことなのだから……」 息を切らして立ち止まった。 両手を膝について呼吸を整える。 そして、再び顔を上げると、すっかり晴れやかな顔になっていた。 ヒカルは、雲一つない青空を見上げる。 ……ありがとう、そして、さよなら、カイト……。

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