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第1話

「君は何で泣かないの……?」 小学生の頃、同級生に怯えたような目でそう告げられたことがある。 「何でそんな平気そうな顔してるんだよ。最低だな、お前」 中学生の頃、動物の命を学ぶ、と言う学習目的で各クラス内で育てていた兎が野犬に食われて死んだ時も__ 「○○君って、どうしていっつもそんな平気な顔していられるの?!ねぇ、おかしくないっ!?」 卒業式の日に事故で亡くなった同級生の弔いをした時も、その同級生の親友が泣きながらそう叫んできた。回りが泣いている中、ある程度仲良くしていた同級生たちの中でただ一人、泣かずにただぼぉーっと突っ立っていた俺に、不信感を抱、話しかけてきた。 「っ…………」 胸ぐらを捕まれ、女子にでも持ち上げれそうな体を突き飛ばされた。 痛みは当然感じなかった。 胸ぐらを捕まれて突き飛ばされようが、頬を叩かれようが、思いっきり蹴られて殴られようが、痛みを感じない。 何一つ、俺の体に痛みを与えない。何一つ、俺の心に痛みを与えない。 昔から何故か感情が欠落したようにある一つの要素が完璧に欠けていた。 痛覚がない。だから痛みを感じない。そして、同時に痛みを感じないから心も何も感じない。 悲しくないのにどうやって泣けというのか。嬉しくないのにどうやって喜べばいいのか。楽しくないのにどうやって笑えというのか。ムカつかないのにどうやって怒れというのか。痛くないのにどうやって感情を露にできるというのか。 小さい頃から、回りからは異常者と言う目で見られてきた。 殴ろうが蹴ろうが泣かない。ほのかに微笑むこともあれば、何故かプツンと糸が切れたように突然黙る。 回りの大人たちは気味悪がって俺から離れていった。 小さかった俺にとって、必要不可欠なのは生きていくための養い主だった。 いつの日か、家に人が出入りすることはなくなっていた。つい数ヵ月前には俺の症状も直ると信じ、両親は必死に俺を病院に通わせ、懸命にしてくれていた。 けれど、全く変化のない俺に対し、母親は「ごめんね」と泣き叫び、父親は歯を懲らしめて、ぐっと押し黙っていた。両親たちは必死に駆け回り、俺を預かってくれる保健所がないか探していたらしい。けれど、保健所側はこれをことごとく断っていった。この時代、孤児が多く保健所側も手が回らなかったらしく、「すまないね」と謝るばかりだった。 そして、俺は両親達が残していった大量の食料と共に、一人家に置き去りにされた。 それから8年___。失った要素を取り戻せないまま俺は16歳になっていた。 そして、生きる術も必死に会得していた。

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