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始まりの森1
「グギャーッ!!!」
ん?鳥の鳴き声??チュンチュンとか可愛いのじゃなくてグギャーって??!
どこだよこれ??森??!!!えっ???・・・な、なんか見覚えあるというか知ってるよこの光景・・・
俺は冬崎明日楽(とうざき あすら)。高校三年生だ。
さっきまで自分の部屋でスマホで小説を書いていたはずなんだが・・・
本が好きな俺は、身近な人物が異世界に勢揃いしてたらどうなるかな?って、勝手に想像して小説を書いていたんだ。
どこかのサイトに投稿するわけでもなく、完全に一人で楽しんでいる趣味だ。受験勉強の息抜きに軽い気持ちで書き始めたんだが、なかなか良い出来ではないかと自画自賛。
そんな小説の冒頭に書いた「グギャー!!!」って鳥の鳴き声がリアルに聞こえてるんですけどっ?!周りも普通に森なんですけどっ??!
まさか俺、自分が書いた小説の世界に来ちゃった???!!
こんな事って現実にあるの??いくらテンプレっつっても小説、漫画、アニメ、ゲームの中の話だろ?夢かこれ??
えっと、その中で俺を勇者に、キョウを魔王に設定してて・・・俺が勇者・・だよな?どうして自分を勇者なんかにしちゃったんだろう?しかも何で森スタートにしたんだよ?俺っ?!!今すぐ設定変えてぇわっ!!
「・・・ちょっと??!アスラ?お~い!ア・ス・ラ??!!どうしたんだよ?」
俺の前に白い翼を羽ばたかせて飛んでいる黒白のハチワレ(額から左右の目にかけてと背中が黒。顔の下半分と首、お腹、手足は白で鼻はピンク)猫・・・俺の相棒の精霊リイじゃねぇか?!!
そう、俺は小説の中でパーティーを組む相手に悩み、このリイを生み出したんだ。契約者に憑依出来る精霊として。
俺は現実世界で二歳年上の幼馴染の秋月 暁弥、キョウ(男)と付き合っている。だがゲイってわけではない。ゲイに対して何の偏見もないが、キョウ以外の男なんて絶対に無理だ。キョウだから好き。キョウにだけ抱かれたい。それが俺。
で、俺が信頼をおく人物はほぼキョウの身内や関係者。キョウを魔王にして、俺を勇者にしたら俺の味方があんまりいなかったんだよねw
流石に母さんをパーティーに入れたくはなかったし。
そこで登場させたのが、空飛ぶ黒白猫のリイ。合体というか憑依して猫獣人となり、一緒に戦ってくれる俺の契約精霊。
俺、自分で勇者ポジにしちゃったけど、剣を使うキャラじゃないんだよね。空手をやってたから剣より拳で勝負したいタイプ。そこでリイさん登場ですよ!!リイが俺に憑依して戦うって設定にしたんだけど・・・
本当にそれって出来るの???!
「リイ?」
「どうしたのアスラ?さっきから何か変だよ?」
「・・なぁ、憑依って本当に出来んの?」
「はっ?今更何??さっきまで普通に憑依してたよね?」
ちょっと落ち着いて今の俺を思い出してみる・・・あぁ、そうだよな、普通に憑依してたよな。リイが俺の中に入って同化する感覚が甦る。うん、極めて普通に息をする、歩く、ぐらいの感覚だわ憑依。
「・・・俺ってずっとこの世界にいた?」
「はぁ?本当に何言ってんの??僕が出会ったのはアスラが三歳の頃だけどそれからずっと一緒じゃん!頭大丈夫?」
そうそう、俺が現実世界でキョウに会った年齢でリイに出会うように書いたんだよな。じゃあ、この世界にいたアスラの人格はどこに行った?まさか現実世界の俺の中??だ、大丈夫かそれ?ていうか俺、元に戻れるの??!
あっ・・・違うわ。俺、現実世界でキョウとそういう関係になった頃までこの世界で成長したら、前世(冬崎 明日楽)の記憶を思い出すって設定にしたんだった。
よく見ると十五、六歳の頃の俺の体型だし、冷静になってみたら今までこの世界で生きて来た記憶もある。
て、事は、俺は冬崎 明日楽じゃなくて、この世界のアスラなのか?あれは現実世界じゃなくて前世??
マジで??
俺の実体というか中の人な俺の存在が、どちらの世界に属しているのかいまいち分からないが、とりあえずストーリーを進めないと何も始まらない。
よし!まずはこの森からでて王都に向かおう!そして王様に会って魔王と話し合いをする為、勇者になるんだ!!
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