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始まりの森2
「母さん!俺王都に行く!!」
森の中にポツンと佇む丸太で出来た一軒家。ここで俺は母さんとリイと暮らしている。母さんは薬師だ。森に生えている薬草などで様々な薬を作り、それを売って生活をしている。
ちなみに、父さんは俺が三歳のころに亡くなっている。その直後に俺はリイと出会ったんだ。
「あらあら、いきなりねぇ?」
そう言いながらも落ち着いている母さん。うん、流石大概の事は笑って受け止めてくれる広い心の持ち主。
前世(かどうかはまだ分からないけどそう呼ぶ事にする)の母さんも妙に理解のある人で、俺とキョウの事も寧ろ応援してくれてたんだ。
見た目も性格もほぼ同じ。どの人物もそういう風に書いたから、別世界の記憶がないだけで同一人物だと思う事にする。
なので、この母さんも前世の母さんと同じく無類の本好きで、特に物語好きだ。今の俺の状況も信じてくれるかもしれない。
思い切って俺の前世の記憶とこの世界について知っている事を話してみた。
それをまとめるとこんな感じ。
前世?の冬崎 明日楽としての記憶がさっき戻った。そこで俺は身近な人物が揃って存在する異世界小説を書いていた。
この世界は、その小説の中の世界と酷似している。
まずこれが前提。
その小説の中で俺は勇者。王様から、魔王と話し合いをして、人族と魔族の国交を復活させるよう依頼される。
そう、魔王討伐とかじゃないんだよ。俺は平和主義者だし、魔王は俺の恋人のキョウなんだから戦いたいわけがない。
先代魔王様と人族の王妃様の関係から、二十年弱途絶えた国交を復活させるだけ。
何で俺が勇者かというと、基本上位魔族としか契約しない精霊と俺が契約してるから。同じく猫の精霊と契約している王子様、ユイくんを大使として、二人で魔王を説得に行くんだ。精霊の契約者となら話し合いに応じてくれるかも知れないからね。
ユイくんも前世の友達だ。ここで前世の人間関係の説明をする事にしよう。
ちょっと複雑なんだけど、ユイくんはキョウの種違いの弟。
キョウの父親はジュンさんという、キョウと同じ顔の超絶美形で、マイナーながらも一部に熱狂的なファンを持つMAGってバンドのボーカルをしている人だ。
強烈な色気を纏いながらも、いつも笑顔で自然体なジュンさんは、前世では天然の人たらし魔王様。なのでこの世界でも先代の魔王様に認定。
そんなジュンさんには、レンさん(男)という恋人がいる。
レンさんは、前世の俺にとって兄のような存在で、よく相談にのってもらったりしていた人。なのでここでももちろん先代魔王様の王妃様ポジションだ。
そしてキョウを産んだ母親がユイくんのお母さんでもあるカコさん。
前世でジュンさんと十代で結婚して、キョウとカグヤちゃんという女の子を産んだけど、ジュンさんの超絶なモテっぷりに我慢が出来ず、カグヤちゃんを連れて離婚。その後、再婚してユイくんが生まれた。
この世界でもほぼ同じで、まず、魔王なジュンさんと人族の娘カコさんが恋に落ち、種族を超えて結婚。二人の子供を授かるも、魔王様の自由奔放さについて行けず疲れて果てて離婚。
二人の子どもは魔族の血が濃く、幼いながらも自由に生きる術を持っていたので、子どもの意思を尊重し、カコさん一人で人族の国に帰る。
この世界の人族の国は、明確な身分制度がなく、個人の能力と国民の評価で誰でも王様になれる。そして、現国王になってからは同性婚も認められ、様々な差別も少なくなり、大変住みやすい国となっている。
そんな現国王が王妃に選んだのがカコさん。そしてユイくんが生まれた。
離婚歴も気にしない大らかで素晴らしい王様なんだ。見た目は普通のおじさんだけど。
で、何で国交が途絶えたかというと、先代魔王様を人族の娘が捨てた!って、一部の熱狂的な魔族のファンが激怒。魔族から人族への輸出、輸入が拒否されるようになったからなんだ。
ジュンさん、前世でもこの世界でも異常にモテて崇拝されてるんだよね。本人はもう何も気にしてないのに、周りだけがまだ怒ってるって感じ?
そういうのが鬱陶しくてジュンさんは、キョウに魔王の玉座を譲り、今はレンさんとラブラブ隠居生活を楽しんでる。
そしてキョウは、何でも完璧にこなすハイスペックの持ち主だ。前世では、完璧王子なんて小っ恥ずかしいあだ名が付いていた。基本無表情で、何でも出来るが何に対してもそんなに興味がない感じ。
実は俺、前世でキョウに無視されてた時期があったんだよね。何でかって言うと、キョウが精通してから俺を抱きたくて抱きたくて仕方がなかったかららしい。横に居たら完全にガキな体の俺を押し倒してしまいそうで、無視してたんだと。
その間俺は一人で頑張ったんだ。虚勢を張って色々画策して、ちょっかいをかけてくるヤツらから身を守った。
その時に付いたあだ名が腹黒王子ちゃん。キョウの完璧王子からの流れで、俺の見た目(小柄で可愛い系だってw)から「ちゃん」付き。全然腹黒じゃないんだけどな。前世でも完璧王子と言うより完璧魔王だったキョウと比べたら鼻で笑われるくらい。馬鹿馬鹿しすぎてあだ名を否定する気にもならなかったよ。
まぁ、どうでもいい話だけど一情報として話しておく。
その後、俺と付き合うようになってからのキョウは、俺にしか興味がない。これは自惚れとかじゃなくて単なる事実なんで、冷やかさずに流して欲しい。
ただ、この世界の魔王なキョウとは初対面になるわけだしちょっと不安だ。俺、キョウに受け入れてもらえるかな?
後、主要な登場人物がもう一人。前世でキョウの親衛隊の三代目隊長をしていたシグ。
このキョウ様親衛隊ってすっごく有能で、現代日本なのに、異世界ファンタジーの王家が使う暗部みたいな働きをしてたんだよ。情報収集とか、洗脳まがいに人を丸め込んだり(キョウと俺の為に同性愛に寛容な高校に作り変えてくれた事も!)とか。だから俺はシグの事を暗部の長って呼んでいた。
長はとにかくキョウの狂信者。キョウの素晴らしさについて何時間でも語れるというヤバいヤツ。けどそれは恋愛感情ではないみたいなんだよな。
歪んでるけど実は分かりやすいいい男で、前世ではユイくんに惚れて、初対面から二日で口説き落とした強者でもある。
この世界でも魔王様の側近としてキョウを守っているはずだ。
他は、レンさんのお姉さんのランさんくらいかな?かなり強烈なキャラで、前世でも魔王親子に魅了されずに対抗出来る稀有な人物だった。
キョウの妹のカグヤちゃんもランさんに近い嵐のような子で、弟のユイくんは破壊神って呼んでいたな。
この二人が揃うと誰も太刀打ち出来ないんだ。
この世界では二人とも魔女設定。怒られるかな・・・?
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