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始まりの森3
「と、まぁ、こんな感じなんだけど・・・」
「・・・くぅっ!!魔王様×勇者アスラだけでもかなり尊いのに、脇カプが更に二組・・・せ、先代魔王様ってあの超絶美形でしょ??!現魔王様も同じ顔って・・・」
「母さん、信じてくれるの?」
「信じるわよぉ!アスラがそんな嘘つくはずないし。いや、嘘でも素敵な妄想ネタをありがとうって感謝だわっ!」
母さん・・・やっぱりこの世界でもブレないね。鼻血出てないか??
「う~ん、僕にはよく分からないけど、とにかく王都に行ってから魔王に会いに行くんだな?面白そうじゃん!!」
うん、リイはそういう子だよね。深く物事を考え込まないタイプ。けど俺はそんなリイにかなり助けられてるよ!
「うん、だからとりあえず王都に行って王様に会おうと思う。」
「そうね、薬やお弁当を用意するからアスラも旅が出来るように荷物をまとめなさい。」
「ありがとう母さん!」
マジックバッグに色々放り込む。収納スペースは畳3畳分くらい。やっぱり異世界っていったらマジックバッグだよな。アイテムボックスやインベントリ的な無限収納は、俺の能力的に身分不相当かな?と思って使える設定にしなかった。
俺、勇者って言ってもチートな能力は憑依くらい。猫獣人になってもそこまで強くはない。Aランクの魔物を倒せる程度だ。
魔法も使えるけど、身体強化と基本的な生活魔法だけだしな。リイが回復系の魔法を使えるから助かってる。
まぁ、魔王討伐に行くわけじゃないんだから!話し合いだ、話し合い。
そして次の日、俺とリイは王都に向けて出発した。母さんが見送ってくれる。
「くれぐれも無理はしないでね?ダメならいつ帰って来てもいいんだから!で・・もし上手くいったら魔王様をあたしに紹介してね?!出来たら脇カプも・・・」
「はいはい、上手くいったら魔王城に母さんを招待するよ。じゃ、行って来ま~す!!」
「行ってらっしゃい!!」
手を振る母さんの前で、俺はリイに向かって言う。
「リイ、憑依!」
「り」
気の抜けた一文字の緩い返事とともに、俺に向かって飛んで来るリイ。
俺の胸の辺りに頭がぶつかると、スッとその姿が消え、俺の体に吸収される。一瞬で体中に満ちるリイの気配と力。俺の血液が沸騰し、体の隅々まで駆け巡る。その熱が背中に集中し、両方の肩甲骨の辺りから俺の体を突き破って解放されて行く。
同時に頭の上には髪の毛の中から黒い猫耳が生え、尻には黒い尻尾が伸びる。
背中からは白い翼が皮膚を突き破り、徐々に広がって行く。完全に伸びきってから翼を広げてバッサバッサと羽ばたくと、俺の体が空中に浮かんだ。
「ふう、何度見ても憑依する瞬間は緊張するわぁ~翼が生えてくるのとか痛そうだし。」
「大丈夫だよ。痛いって言うよりすげぇ解放感だから。寧ろ気持ちいいくらい。じゃあ、今度こそ本当に行って来ます!」
母さんに手を振り、俺は空に向かって羽ばたいた。
王都まで普通に行くと、乗り合い馬車で三日ほどかかるが、空を飛んで行くと一日で着く。
空には魔物も少ないし、快適な空の旅だ。
『アスラ、一キロ程先にコカトリス発見!』
頭の中にリイの声が響く。憑依してもリイの人格は俺の中に存在しているんだ。普通に空を飛んでいるだけだとこの状態。頭の中で会話も出来る。
そしてお互いに意識を完全に同調させる事も、切り離してシャットアウトさせる事も可能だ。
一番戦闘能力が高いのは完全同調している時で、二人が混じった猫獣人アスリイとなる。いつもより好戦的な性格だ。
逆に憑依していても、プライベートを守りたい時にはお互いの意識を切り離す。トイレに行く時とかね。
「コカトリスか~グギャーの正体だな!どうする?負けはしないと思うけど、石化が厄介だからアスリイモードでいくか?」
『だね!』
俺とリイの意識の境目がなくなっていく。さっきよりも更に血が滾り、早く戦いたくて仕方がない。アスリイになると、常に軽い興奮状態となるんだ。
瞳孔を縦長にして、コカトリスまでの距離を測る。よし、後五百メートル。
俺は気配を消し、速度を上げてコカトリスの背後に突っ込んで行く。先手必勝。気付かれないうちに首筋目掛けて上段回し蹴り。殺す必要はないので、首の骨が折れないように加減する。
「グ、グギャ・・・」
コカトリスが落ちて行くので、地上に降りて受け止めてやる。そのうちに目が覚めるだろう。それまでに他の魔物に襲われたら運がなかったって事で。
じゃあ、別に戦わなくても良かったんじゃないかって?甘いね。知能が低い魔物は人を見ると襲いかかって来るんだよ。だから先手必勝。かと言って、縄張りに侵入したのはこっちなのに、片っ端から殺戮するのもどうかと思うので、余裕がある場合は今の様に気絶させるようにしている。
もちろん余裕がない時には殺す事を前提に戦うよ。じゃないとこっちが殺される。後、人族が住む場所に魔物が侵入して来た場合もね。
そんな感じで空の旅を続け、夜中には王都に着いた。今日はもう遅いから、宿に泊まって明日に備えよう。
お休み~
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