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第11話

王宮に近づくほど、人々の賑わいを感じるようになった。大きな街にたどり着き、リーラも双子もキョロキョロと辺りを見回した。 「ここは街の中心部だ。色々な店があるだろ?」 色鮮やかな布を売る店、果物や野菜も売っている。食べ物のいい匂いもしており、活気に満ちた街だなと、リーラは眺めていた。 ネロは騎士団長のレオンの馬に乗り、あれこれと指差して聞いている。 アルは宰相のクリオスに何やら質問攻めをしているようだった。二人のこんな姿は初めて見る。かなり刺激になったようでリーラも嬉しく思う。 「ここを抜けると王宮が見えるぞ」 目の前に王宮の入り口が見えてきた。 活気溢れた街からさほど遠くない場所に王宮はあるが、森に囲まれているような敷地であった。リーラが住んでいた村の匂いがして気持ちが少し落ち着く。 「陛下、おかえりなさいませ」 「ああ、ありがとう。リーラ、こっちが侍従と侍女達だ。必要なものがあれば何でも彼らに言ってくれ。リーラ達の案内を頼む」 「はじめましてリーラと申します…」 王宮も初めてであれば、こんな煌びやかな場所も初めてだった。リーラは恐縮し小さくなってしまうが、ネロとアルは、そんなリーラにお構いなしに物珍しさから、今にも走り出しそうである。 「陛下!もう黙って居なくならないでくだされ!」 痩せ細った老紳士が小走りで近づき、ランディに向かい説教をしている。   「ああ大臣か…わかった、わかった。帰ってきたから大丈夫だろ」 ランディはいつも黙って城を抜け出しリーラ達がいる村に来ていたらしく、大臣が苦言を呈する。 リーラと双子が城で暮らせば、黙って抜け出すことも無くなるため、これ以上痩せる程心配することもなくなると笑っている皆の姿にびっくりする。城の中の人達はとても温かい。 「クリオスとレオンは、俺と一緒に来てくれ。大臣、ほら早くしろよ、議会に出るんだろ?」 そう言って、リーラと双子を抱きしめてからランディは急ぐように出ていった。 「はじめまして、何でもお申し付けくださいね」 「あらあら、はじめまして。かわいい双子ちゃんね」 「お腹すいた?ご飯食べましょうか」 侍従と侍女達に言われ、「「はーい」」と双子の元気な返事が王宮にこだました。 人当たりの良さにホッとする。王が気さくな人柄の持ち主なので、仕えてる人達も大らかなのだろうか。 「ずっと待っていたんですよ。ランドルフ陛下がお連れするって言うのに中々来ていただけないから、どうしたものかと思ってました」 「そうですよ。かわいい三人だぞって言ってましたから、早くお会いしたかったんですよ」 いいのだろうか。身分も身元も分からないリーラ達を、何の疑いもなくここまで受け入れてくれるのは、大丈夫なのだろうか。自分のことなのに他人のように、侍女達を心配してしまう。 「あら、その帽子」 リーラの手を見て侍女が呟いた。その手は、ランディからもらった舞踏会の帽子を握っていた。 「あ、あの…これは…」 「陛下でしょ、これ。女性用だって言ったのに」 「しかも舞踏会用だからって私も伝えたのよ」 「それでもこれがいいって持って行ったんだわ。全く」 ランディは侍女達に、帽子をプレゼントしたいと相談したらしい。 色々な帽子が集められ、その中の一つをランディ自身が選んだという。それがこのふんわりとした舞踏会の帽子だった。 誰にあげるのか、何に使うのかを侍女達が聞きだし、男の子が畑仕事で使うとわかると全力で止めたようだが、ランディはそんなことは耳も傾けず、リーラに渡したようだ。 「でも、まぁ似合うわよね」 「うん。かわいいわ」 「わかってて持っていったんだわ。陛下ったら」 ぽんっと、リーラの頭に帽子を被せて、侍女達は満足そうにしていた。 ゆらゆらと帽子を揺らしながら歩くリーラの前を、双子を連れてる侍女達が笑いながら歩っている。双子の足取りはスキップしそうな程楽しげだ。 ここは沢山の人が働いている。 「なんで俺が端なんだよ」 夜の食事が終わり、案内された場所は王の部屋である。部屋数も多く寝室も広いため、リーラと双子はここで寝食を王と共にするようにと言われている。 寝室では約束通り、ランディはネロとアルを抱き上げベッドに寝かせ、リーラの手を取る。ベッドは広く、四人で横になっても余るほどだった。 はしゃぐ双子は事前に二人で相談し決めていたのだろう、この順番で寝たいと言い出した。リーラの隣にアル、ネロ、そしてその隣にランディだ。 「だから、なんで俺が端なんだよ」 「ランディ大きいから、僕達二人をギュッて出来るでしょ?」 「だったら、リーラ、俺、おまえらの順番でいいじゃないか」 「それだと、リーラと僕達が離れちゃうでしょ。それもやだもん」 ムッとしているランディが面白くてみんなが笑い出す。 「それでね、明日は僕とネロが場所変わるの。今日は僕がランディの隣ね」 二人から好かれてランディも嬉しそうである。 「ランディは大きいけど、二人一緒にギュッとするのは難しいんじゃないかな。だから今日は僕がアルをギュッとして寝てあげるね」 リーラがギュッとアルを抱きしめると声を上げて嬉しそうにしている。 「ネロ、あれ羨ましくないか?よし、じゃあ俺も今日はお前をずっと抱っこして寝るとしよう」 ランディに構われて、ネロはキャッキャと楽しそうな声を上げた。 「ねぇ、アル。今日、馬に乗ってる時、宰相様と何のお話したの?」 リーラは昼間の光景を思い出して尋ねた。 「クリオスね、すごいんだよ。何でも知ってるの。僕ね聞いたんだ、ランディが言ってたこと。水がなくて乾いちゃったり、溢れちゃったりするのはなんで?って聞いたら、何でも答えてくれたんだよ」 大人しく聞いていたネロも話し出す。 「レオンだってすごいんだ。おっきい剣持ってるんだよ、強いんだって。くんれんってのをやってるんだって。くんれんって毎日やると強くなるんだって」 クフフと笑っている。 「へぇ…そうなんだ」 二人が急に大人になったような気がする。彼らにはどんな世界が見えるのだろうか、これからが楽しみである。 色々な人と交わるのは大切だなと思う。 「そうだな…色んなことを知っていくのは楽しいぞ。体も心も大きくなれ」 双子は、グリグリとランディの大きな手で頭を撫でられる。 「それから、たまには俺もリーラの隣に寝かせてくれよな。俺だってギュッとされたいぞ」 「えー、大人なのに」という双子の声には耳を傾けず、ランディはリーラを熱く見つめていた。

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